橋本裕の日記
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21.逃亡者
学校を休んでも、一時しのぎにしかならない。不審を抱いた先生は、いずれ家にやって来るだろう。私は外出用の手提げ鞄を押入から取り出して、衣服やズックなど、当面必要と思われる日常品を詰め込んた。準備を整えてから再び寝床に潜り込んだ。それから、寝床の中で耳を澄ませた。
先生が来たのは、午後になってからだった。 「ごめん下さい」 階下の玄関口の声を聞いて起きあがると、私は手荷物を抱えて隣の縁側に出た。窓ガラスを開け、隣家の屋根伝いに逃げ出すつもりだったが、運悪く裏庭で日向ぼっこをしている祖母と目が合った。
私はとっさに部屋に引き返して、押入に逃げ込んた。天井板が外せることを知っていた私は、そこから天井裏に逃げることにした。押入から天井裏にはい上がると、屋根裏は真っ暗だった。目が慣れてくるにつれて、ぼんやりと様子が浮かび上がってきた。屋根の梁や腰板の隙間からわずかに明かりが差し込んでいた。
私は天井板を直接踏まないように注意しながら、梁の上を移動し、その上に腰を下ろした。そして息を殺すようにして、足下の天井板越しに聞こえてくる音に耳を澄ませた。かなりしてから、母が呼ぶ声がした。
「裕ちゃん、裕ちゃん」 声の感じから母がいっさいを了解したことを知った。母はさらに幾度か私を呼んたが、やがて諦めて階段を降りていった。私が窓から逃げ出したと思ったに違いない。
私は梁の上を移動して、節穴の一つから外を眺めてみた。そこから通りの向かい側の布団屋さんの看板や、店先の様子が見える。屋根越しに足羽山がまるで望遠鏡を覗くように近くに見えた。しかしそんな眺めを楽しんでいる余裕はなかった。この先の身の振り方を考えなければならなかった。
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