橋本裕の日記
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20.仮病
朝方目を覚したとき、頭が重いようだった。それですぐには起きあがらずに、床の中でぐずぐずしていた。様子を見に来た祖母に、 「頭が痛いんだ。体温計を持ってきて」 祖母は私の顔色を見て、うなづいた。本当に病気だと思ったようだ。
私は祖母の持ってきた体温計をしばらく口にくわえた。しかし思うように体温は上がらない。むしろ平熱よりも低いくらいだった。私は祖母の目を盗んで、こっそり体温計を逆さに振った。そうすれば水銀柱を引き伸ばすことができる。三十八度を超えたところで、祖母に見せた。
祖母が下に降りて、しばらくすると母が来た。 「寒気がするんだ」 私はそう言って布団を頭から被った。母の手が私の額に伸びて来るのを未然に防ぐためだ。母はため息をつくと、 「学校に欠席連絡しないと。佐藤先生だったわね」 佐藤先生と聞いて、私は布団から顔を出した。
「葉子ちゃんに学校を休むからって、言伝てして貰えばいいよ」 私の家には電話はなかったが、近所の公衆電話からかけられると昨日のことが露見すると思った。 「だったら、あなた自分で行っていらっしゃい」 勢いよく布団から顔を出した私を見て、母は私の病気が軽いと見たようだった。私も渋々起き出さないわけにはいかなかった。
葉子を班長とする集団登校のメンバーははすでに集まっていた。葉子は大きな目でじっと私を見つめたが、何も言わずに黙ってうなずいた。私はほっとした。 帰り道、振り返ると葉子たちの一団がゆっくり遠ざかるのが見えた。 (今ならまだ間に合う) 私は後悔の念に襲われた。今日学校を休めば事態はさらに不利になるのは目に見えている。しかし学校へ行く気にはなれなかった。
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