橋本裕の日記
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18.白い紙
私と茂夫が連れて行かれたのは、四畳半程の日当たりのよい和室で、たぶんそこは宿直室だった。部屋の真中にテーブルが置かれてあった。 私たちはそこでまた待たされた。
「ごめんな」 茂夫が小さな声で言った。そして、上目遣いに私を見て、 「僕が悪いんだ。先生に言うよ。君に迷惑をかけないよ」 私は首を振った。 「僕も食べたんだから、同じだよ。それに、あれから君はやっていないんだろう」 「勿論だよ。今度捕まったらおしまいだと思ったからさ」
私は茂夫の返事を聞いて、安心した。それとともに、怒りが湧いてきた。 〈こんなことが学校や近所の人に知られてごらん。君たちの一家は夜逃げしなければならなくなるんだよ〉 デパートの取調室で、男から言われた言葉を私は覚えている。男は続けて、 〈今回だけだよ。もうこんな事はしないと約束できるね〉 とたしかに言った。
この男の言葉によって、私は両親にも先生にも今度のことを打ち明けることができなかった。一体この四月間の苦しい葛藤は何だっただろう。 いずれ学校に通報するくらいなら、なぜそんな思わせぶりな言い方をしたのか。私はそこに大人の狡猾な悪意を感じた。 (先生や両親に話しておけばよかった) 私は唇を噛んたが、後の祭りだった。
やがて佐藤先生がスーツを着た上品な感じの紳士を連れて戻ってきた。この人は家庭裁判所から派遣された指導員のようだった。言葉遣いは柔らかだったが、物腰に威厳が感じられた。
「ここに真っ白な紙があるね。今日から君たちは生まれ変わって、この紙のような心に戻って、正直に生きて行くんだよ」 私たちはしばらく首をうなだれてその白い紙を見つめた。そしてその部屋を出ると、水飲み場で涙の跡を流してから教室に戻った。
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