橋本裕の日記
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16.ブランコ
家の近くに公園があった。公園といっても原っぱで、片隅にシーソーやブランコが置いてあるくらいだった。茂っている樹木の中でとりわけ目に付くのは三本の柳だった。二階の私の部屋からこの柳の大木が見えた。
夏休みが終わって、公園で私は幼なじみの葉子と、学校帰りにときどき顔を合わせるようになった。その日も私は学校からの帰り道、公園のブランコに腰を下ろしている葉子を見つけた。私は幼い頃、葉子とよくこの公園にきて、一緒にブランコに乗ったものだ。私が若狭に引っ越しして、二人は疎遠になっていた。再び一緒のクラスになったが、これまで私は気後れから彼女に距離を置いていた。
その日、私は思いきって葉子に近づき、並んでブランコに座った。二人でブランコに坐るのは五年ぶりだろうか。葉子がブランコをかるくこぎながら飼っていた犬の話をするので、私も若狭の青郷という寒村の駐在所で飼っていた「クロ」という犬の話をした。クロが小学校のウサギを殺したので、駐在所に置いておけなくなって、舞鶴の猟師にやった話をすると、葉子は目を輝かして耳を傾けていた。
「それからしばらくして、クロが学校の校庭に現れてね、僕に飛びついてきたんだ」 私はそのとき噛みつかれた傷跡を葉子に見せた。葉子は私の指の付け根にかすかに残る傷跡を見ながら、 「クロも噛みつこうと思って飛びかかったんじゃないわよ」 「担任の先生もそう言ってくれたよ。クロは僕を見てうれしかったんだって」 「それで、クロはどうなったの」 「猟師がやってきてね、猟銃で撃たれたのかも知れない。やがて伊勢湾台風がきて、僕の一家が棲んでいた駐在所が壊れて、小浜に引っ越ししたんだ」
小浜には二年間ほど暮らした。そこでも色々とあった。葉子はそんな私の身の上話を、飽きもせずに聞いてくれた。気が付くと日が傾いて、あたりは夕焼けだった。日差しの中で、葉子の頬が少し火照って見えた。
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