橋本裕の日記
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ヘレニズムの特徴は、「ギリシャ愛好」ということらしい。ギリシャ人のようにギリシャ語を使い、ギリシャ人のように哲学や思想を語り、数学や論理学、音楽理論に通じ、軍事的にも商業でも強く、そして、何よりも人生と芸術を愛し、美しい彫刻や工芸品を作る。丘の上には大理石で白亜の神殿を築き、学校や体育館(ギムナジゥム)、円形劇場などの公共施設を建てる。
アレクサンダー大王は、マケドニア人だが旺盛なギリシャ愛好精神を持っていた。彼はアリストテレスに哲学を学び、ホメロスを暗唱して、自らをギリシャ神話の英雄アキレスに同一視していたらしい。彼はインド北部にまで侵攻し、各地にギリシャ人の都市を築いた。それらはいずれも、「アレキサンドリア(アレクサンダーの都市)」と呼ばれた。
ギリシャ文化を忠実に受け容れたローマの彫刻はほとんどギリシャ彫刻の模造品といってよいが、インド北部のガンダーラ地方でもギリシャ彫刻の影響を受けて仏像がたくさん作られた。それはアレクサンダーの東征から300年以上も経ってからだから、その影響力の大きさを思わずにはいられない。
私は仏像が好きで、中宮寺の弥勒菩薩など、ほとんど私の永年の心の恋人だと言ってよい。その前に坐っていると、心が明るくなり、ひろびろとしてくる。この美しさはたぶんに精神的なものだ。仏像の背後に、はるばるとした人類の歴史が控えていて、奥深い天上的な魂と人間的な叡智の匂いが感じられる。
ギリシャ彫刻については写真でしか知らないが、私はその明晰な美しさに脱帽するしかない。さまざまな形をした彫刻には、いずれも美のイデアが輝いており、ギリシャ人の精神活動の奥深さと自在さを感じ取ることができる。ギリシャ人は文学や哲学を産み出したが、純粋に造形的な芸術というものを生み出した最初の民族だと言ってもよい。
ギリシャ建築や彫刻の特徴は、論理的なものと美的なものがしっかり結びつき、統一されていることだろう。彼らの創造した美はあくまで知的で明晰で、彼らの創造した論理や哲学はどこまでも美的である。ギリシャの彫刻や仏像を眺めていると、美というものが単なる感性の産物ではなく、知性や精神性のもうひとつの果実であり、明晰で透徹した表現であることに気付かされる。そしてギリシャ彫刻の影響を受けた仏像もまた、この思想の明晰さと美しさを奇跡のようにたたえている。
参考までに、歌集「明日香風」に収められている短歌をいくつか引いておこう。十数年前に中宮寺を訪れたときに詠んだものだ。
中宮寺御堂の畳に正座して十とせぶりなる御仏拝む やはらかき指のひとつを頬に触れをとめのごとき仏ゐませり かくばかり美しきもの伝えてし人のこころはたのもしきかな ほのぼのと明日香をとめがほほえみて人のこころもやさしくなりぬ み仏を拝みて後の人の顔ほのぼのと見ゆをさな子のごと
(私のHPの右側のページには「ミロのビーナス」の写真が飾ってある。これをクリックすると、私が部屋に飾って毎日眺めている中宮寺の弥勒菩薩の横顔が現れる)
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