橋本裕の日記
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2003年09月12日(金) こうもりの空

12.臨海学習

 夏休みを前にして、臨海学習があった。若狭の海に二泊三日で行くという。若狭と聞いて懐かしくなった。四月に小浜を離れて、まだ三カ月しかたっていないのに、ずいぶん昔のことのように思われた。

 臨海学習は高浜の少し手前の和田というところで行われた。途中小浜を通る。私は見覚えのある線路沿いの風景をじっと見つめた。汽車が小浜駅のプラットホームに着くと、三ヶ月前に見送りの友だちと別れた改札口や駅前広場が見えた。

 それにしても思い出というのは不思議なものだ。小浜にいた頃はその前に住んでいた青郷や福井の頃がとても幸せだったように感じられた。そして小浜が面白くなくて家出までした。それが福井に帰ってみると、小浜にいた頃が断然よく見える。

 私が一人でそんな思いにふけっていると、
「君、こっちの方から来たんだよね」  
 斜め前に座っていた藤田君から声をかけられて、私は我に返った。私の反応が鈍かったせいか、藤田君はすぐに話題を変えて、隣の席の少年とプロ野球の選手の話を始めた。

 私はまた車窓の外に目をやった。
(潮ちゃん、和子ちゃん、良ちゃん、柿谷先生……)
 小浜を出ると、汽車はやがて海岸線に沿って走った。それからしばらくして、目的地についた。

 臨海学習の三日間で、これという楽しい思い出はできなかった。なれない集団生活は、私に気苦労や緊張を強いた、苦痛で憂鬱な三日間だった。
 茂夫とも話をしなかった。万引き事件の後、私と茂夫は以前ほど親密に交わることをしなかった。

「こんな事が知られたら、君たちの両親は夜逃げでもしなければならない」
 取り調べ室で男から言われた言葉が、悪夢のように蘇る。私は茂夫から自然に目をそらしていた。茂夫も話しかけてこなかった。

 臨海学習から帰って、私は急に発熱した。近所のSという医院に行くと、
「風邪ではなさそうだね。明日になれば熱も下がるよ」
 医者の言うとおり、翌朝になると熱が嘘のように引いた。


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