橋本裕の日記
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10.取り調べ室
男に襟首を掴まれたまま連れて行かれたのは、物置部屋のような殺風景な取調室だった。そこにスチール製の机や椅子が置いてあった。 「ここで待っていなさい」 男は私たちを座らせると姿を消した。十分、十五分してもなしのつぶてだった。いっそ部屋から逃げ出そうかと思ったが、思いとどまった。入り口の扉が開いたままなのが怪しかった。
部屋には小さな窓があった。壁も天井もむき出しのコンクリートで、たくさんの管が走っている。値札のついたままのワンピースや化粧品、ネッカチーフ、腕時計等が壁際に乱雑に積まれていた。いずれも万引きされた商品だろう。
男が姿を現したのは、かなりたってからだ 「他にも盗ったんだろう。正直に言うんだ」 「チョコレートをもう一つ……」 茂夫が小さな声で言った。 「これまでに、こんなことをしたことはあるのかい」 「いいえ」 私たちは二人とも首を横に振った。
男は氏名と住所、学校や家庭環境について質問しながら、調書を作った。そして、そこに拇印を押させた後、 「こんなことが学校や近所の人に知られてごらん。君たちの両親は恥ずかしくて町内に住んでいられないよ。夜逃げでもしなければならなくなるんだよ」 男の言葉は、私の心に突き刺さった。
(とんでもないことをしてしまった) 私は父や母の顔を思い浮かべた。そして涙が頬を流れ落ちていくのを止めることができなかった。茂夫も泣いていた。 「今回だけだよ。もうしないと約束できるね」 男の表情が少しだけ和らいだ。
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