橋本裕の日記
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2.優等生のとなり
同じクラスに葉子がいた。彼女は私が若狭地方に行っているうちに私より背が伸びて見違えていた。私は気が引けて、彼女と顔を合わせることができなかった。 私の席は一番後ろだった。隣りが学級委員の藤田君で、彼は見るからに秀才タイプの少年だった。そしていろいろと気をつかってくれた。
「遠慮なく訊いてね」 彼は頭がよいばかりではなく、運動もよくできた。それから上品な目鼻立ちの美少年で、声が美しいソプラノだった。音楽の時間には彼のとなりで、彼の声に圧倒されながら、私は蚊の鳴くような小さな声しか出せなかった。
担任の佐藤先生は親切で私の席を彼の隣りにしたのだろうが、これは私にとってあまり有難いことではなかった。福井に転校してきて萎縮していた私は、この優秀な少年の隣に席を占めることで、よけいに身の縮む思いを味わうことになった。
彼はクラスの人気者だから友達も大勢いる。そのにぎやかな会話を隣で聞きながら、自分だけが輪の中に入っていけない寂しさを感じた。 私も前の学校では学級委員をしていたが、今は藤田君の隣に座らされて、教えを乞う立場だ。あきらかに劣等生のようなものだった。自分の服装についてこれまで一度も意識したことはなかったが、彼の横にきてからは自分の服装や髪型まで気になった。
私を驚かせたのは教室の後ろに張ってある点取り表だ。テストの成績がいいと、そこに赤丸がついた。反対に成績が悪かったり、忘れ物をしたりすると青で×がつく。彼は赤丸の数でも他を圧倒していた。 「君もそのうちに赤丸がいっぱいつくといいね」 「せめて青色の×がつかないように頑張るよ」
小浜から福井の学校に転校してきて、教科書の活字の大きさまで変わっていた。宿題の量も違っている。 「僕がとなりにいるから、大丈夫だよ」 彼の自信たっぷりの表情が癪にさわった。
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