| 2004年10月16日(土) |
「夜は強い光を見なければコントラストが少ないから落ち着くんだ。色も」 |
前略 王子様
急に寒くなりましたね。 秋冬の「きゅん」とする空気は好きですが、 冷え性なので寒いのは苦手です。 行動力が落ちるのです。
一人暮らしの部屋も、そろそろ冬じたくを始めなければなりません。 お布団はさっそく厚いのに替えましたが、 おこたはまだ出してないの。 たたみにスリッパはおかしいので、 毛糸の靴下が欲しい。 本当は自分で編みたいなあと考えています。 それからひざかけも必要。 大判の、タータンチェックの。
おこたがあればストーブはいらないかなあ? 実家には石油ストーブがあって、朝起きて台所に行くと 「さむいさむい」と言いながら火をつけて、 その上に干しいもやおもちをのせて焼いた。
あなたはお元気ですか?
冬じたく、ちゃんとしなきゃだめですよ(お母さんみたいだ)。 マフラーとか手袋とか、連絡先を教えてくれたら送ります。 マフラーは、きっとあなたに似合うシックなのを見つけました。 大判なのでマントにもなります。
今日は、とてもいい日でした。 よく笑いました。 素敵な人に会ったからです。
この人に会うと、 いつもファンタジーの中にいるような気分になります。 いつもの風景が変わって見えます。
「向こうに丹下健三の東京カテドラルがあるよ」というので 目白駅からまっすぐ歩きました。
私のまわりには 橋の上から眺める美しい夕焼けや、 鳥肌が立つような坂の下の家並みや 古ぼけていい白になった団地の壁がありました。
見つけるたびに「あ」と言って足を止めるその人の 目の先に、びっくりするような色や構図が展開します。
逃げ出さなくても、叫ばなくても、 日常のちょっとした裂け目にこうして 「世界」は立ち現れてくれる。
こんなに普通のことに、この人に会うまで ずっと気が付かずにいました。
私は話したかったことをとりあえずすべて消化しようと 早口で、落ち着きがなくて、 みっともなかったと思います。 何度もブーツで転びそうになって、 あはは、と笑われました。 何を早口で話したのか、忘れてしまいました。 もうすぐ23だというのにね、だめですね、ドキドキして。
教えてもらった小さな洋服屋さんは とても上品なのに気張っていなくて、 着るほどに(つまり汚くなるほど)良くなりそうな服がたくさんありました。 店長さんが素材や色について詳しく説明してくれるのを、 ほくほく聞きました。 「使い込むとこうなるんですよ。もう私なんてまる2年こればっかり」 と見せてくれた鞄が本当に素敵で お金が入ったら欲しいなあ、と想像をふくらませています。
人が着た時、(かばんなら)ものを入れた時に 本当の美しさが見えてくる服が好きです。 どんなにデザインが個性的でも、コンセプトが魅力的でも 見かけ倒しのものにはひかれません。 文章だってそうです。 からっぽのネームはすぐに見破られます。
私は、私のリアリティを生きています。 たったひとりで。 早稲田通りを歩く時、私の目に映る思い出を、 誰も知りません。
しかし、今日一日を反芻しながら思うのです。 誰かのリアルを、少しとらえ方は違っても共有できるって 本当に素敵なことだなあと。 昔は、「私が○○を考えている時、 他の誰かは私のことを考えているだろうか?」と しばしば考えました。 今、それはどうでも良いことのように思えます。
マンションの敷地のへいによじ登って見た夕焼けを、 ピンクと紫とオレンジとグレーと…… 無限の色が重なり合った繊細な空を、 私は一生忘れないと思います。 といって、涙が出てきました。 ミスチルみたくなって嫌です。
……なんだか話が抽象的になってしまってごめんなさい。 癖のようなものなんです。
こんな風に人と会ったことを、 あなたに話してもあなたはその人のことを知らないのだから 意味がないと言えばないのかもしれない。
それでもまあだらだらと、 私はこれからもお手紙を綴るでしょう。 書いて伝えたいとわざわざ思えることだから、 あなたに向けて書くのです。 ひくひく部屋で泣きながら、 キーボードを打つ私はどうでしょうか。
書けば書くほど、どうしたらいいかわからなくなる。 でもしょうこりもなく、書いている。
朝日新聞書評欄に見つけた、川上弘美の言葉。
かしこ
|