日々の泡・あるいは魚の寝言

2002年10月02日(水) 読書日記〜センドー・ウォー

大林憲司先生の「センドー・ウォー」(MF文庫のライトノベルスです)を拝読しました。
さわやかでかろやかな、お話でありました。健全な伝奇ものです。

昔々、仙人になりたい若者がいまして(杜子春みたいな感じかな?)、師の仙人(単純にいってしまえば、悪い人)に指令を受けて、平安時代の日本のとある場所に、とある呪詛をしかけにくるわけです。ところが、その土地で、珠姫さんという女の子を好きになってしまいまして、愛ゆえに仙人への道を捨て、人として生きことにしたのですね。
珠姫さんの故郷であり、新しい自分の住む場所となった地を守りながら。

それから長い年月が過ぎて−−。
珠姫さんと仙人志願の若者の間に生まれた子供の子孫である高校生、円堂剛士と円堂珠恵は、父祖の地である穏やかな方条市で幸せに暮らしています。が、その平凡な日常が、ある日をきっかけに、突如として壊されてゆきます。
いとこ同士のほのかな初恋は実るのか? そうして、剛士は魔の手にさらわれた珠恵のたましいを取り返すことができるのか? というお話です。街そのものを消し去ってしまおうという陰謀に巻き込まれてゆく主人公たち。襲い来る危機の中で、剛士の中に未知の力が目覚めてくるのですが、それを格闘好きの現代高校生なりに考えて使いこなそうとがんばるあたりが、なんかいいです。

ナイスバディの女の子の仙人さん(わけあり)とか、ちょっと危ない電気人間のハンサムな仙人さん(でも悪役なんだなあ)とか、ナバホ族のインディアンの魔法を使う巨体の強い正義の軍人さんとかでてきます。あと、紙細工の式神(といっていいのかな)の動物たちが、一応敵方のものなんですけど、妙にかわいくていいです。もちろん、味方の式鬼さんたち(珠恵ちゃんが操る…ていうか、お友だち?)もかわいいというか、ほのぼのです。
(いつも思うんですが、大林作品の脇役や小道具扱いの動物キャラたちは、どのキャラクターも、ほんとに不思議にかわいいのはなぜなんでしょうねえ?)。
かわいいといえば、主人公と親友の少年のじゃれあいも、なんだかほのぼの笑えちゃって、一言でいうと、いっそかわいい、という感じでした。

大林憲司先生の小説は、概してわたしの好みなのでありまして、それはなぜかというと、まず扱っている設定の題材が好みというのもあるんですが(ああ、民俗学〜歴史〜オカルト〜魔術〜♪)、主人公の性格がとにかく清らかなほどさわやかだということが一番、ぐっとくるのです。
なんだか今回も、一生懸命大好きないとこの珠恵ちゃんのためにがんばって、ときに気持ちが揺らぎながらも、でもがんばって、逃げないでがんばって、という主人公がいいんですよね。で、けっこうせっぱつまっているはずなのに、いつでも自分を冷静にふり返る余裕があったりして。自分で自分につっこみ入れたりして。一言でいうと、剛士くんは、「いい奴」なんですよね。
(考えてみれば、大林作品の主人公たちは、いつも「ヒーローらしく」ないかもしれないなあと、今ふと思いました。世界や好きな人を守るために、体を張って闘うけど、心の中では自分に自信がなかったり、自分の弱さを憎んでいたり、そんな自分を否定していたり…。でも、それでも足を踏み出す強さがあるんですね。ていうか、大林作品におけるヒーローというのは、「己の弱さを知っていて、なおかつ足を踏み出す少年少女」なのかもしれません)。

もっともこの作品、好きではあっても、読んでいてつっこみをいれたくなる場所はあることはあった(ヒロイン珠恵ちゃんをもう少し書き込んでほしかったとか〜。主人公二人の数年ぶりの再会のシーンはやはり書くべきだったんじゃないかとか、脇役のとあるかわいいお姉さんが香水を付けてるんですが、彼女の洋服の好みからして柑橘系の香水は付けないんじゃないか、とか。たぶん彼女ならベビードールとか、サムライウーマンとかつけてそうだ…。本来どっちも職場向けの香水じゃないけど(^^;))んですが、でもやっぱり、この主人公のさわやかさの前では、少々のあらはどうでもよくなってしまうわたしなのでした…。

主人公が自分の守るべき街の夜景を見たとき、「100ドルの夜景」という言葉が脳裏をよぎるんですね。「100万ドルの夜景」というほどゴージャスじゃない、でもささやかに美しい街の夜景を、その街の人たちが表現した言葉だ、ということで。ありふれているけど、ささやかなんだけど、普通なんだけど、みんながそこに生きて暮らしている街。その中でいとこが作ってくれるお弁当を、幸せな気持ちで食べている主人公。そのささやかな日常を守ろうと努力する主人公−−こういう世界観って、いいなって思うんですよ。うん。

作家は自分の心の中から離れた作品は書けないものなので。
作品は常に、作家の心の源泉に根を生やして花咲くものなので。
きっと、大林先生自身が、こんなふうに世界や街を見ているのでしょうね。

徐福伝説や、レイライン、仙人、道教、魔法合戦、あたりが好きな人には、そっとさしだしてお薦めしたい本です。ああそれから、わたしはナバホ族と第二次世界大戦の話を以前なにかで読んだことがあったので、そのくだりがでてきたとき、おお、と思いました。同業者として、尊敬しちゃいますね。戦争とかそういう、過去の負の遺産から生じたエピソードを娯楽作品の中で使うということは、わたしはよいことだと思っているので…。


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chayka [HOMEPAGE]