日々の泡・あるいは魚の寝言

2001年02月23日(金) 里親になり損ねた話

今日の昼下がり、近所の公園に、捨て猫がいたのです。
猫にしてはめずらしい、柴犬みたいな色の猫。
それが、柴犬系雑種犬といっしょに、丸くなって眠っていた。

顔にサインペンで眉毛を書かれている犬は、公園の前にあるおそばやさんの店員さんの犬で、毎朝、いっしょに通勤してくる犬なのです。名前はサブちゃん。おだやかな性格で、公園の猫たちをおうこともなく、いつも公園でのんびり寝そべって、飼い主の仕事の時間がおわるのを待っているのでした。

犬に抱かれている子猫は、私の目には、生後二ヶ月くらいに見えました。
鼻がつんと長くて、シャム猫っぽい感じ。
毛色も日本猫風じゃないから、あきらかにまじってる感じ。
しっぽの長さは、ちょっと中途半端。
問題は目で、薄青色に見える目は、両目ともほとんどつぶっていたのでした。
病気の猫です。

でも、私の方を見上げて、「にゃあ」と鳴くので、家から猫のおやつを持ってきて、あげてみました。
おなかがすいていたのか、すごい勢いで食べました。
食欲はある。口の中もただれてはいない。
すると、重病ではないのかな? 寒さとストレスで目が開かないのかな?

うーん。
ここで私は悩みました。
拾うべきか、否か。
毎日のようにこの公園をのぞいて、「捨て猫いたら拾っちゃうかも」と思い続けて、どれだけになることか? あさってはランコの49日。納骨するまでは次の猫は家には入れないと骨壺に誓ってはいたものの、でも、もうほとんど、49日たつしなあ。病気の猫だし、これから天気が悪くなりそうだし、この猫、雨に濡れたら死んじゃうかも知れないし。そしたら、ランちゃんだって許してくれないかな?

でも問題は、今いる猫、レニなのです。
レニはたぶん、この猫を受け入れてくれるんじゃないかなと思いました。あいつはランちゃんと違って、猫や人間が好きな猫だから(なんだったかの猫の本に書いてあった表現を使うと、「空間をほかの猫や人間と共有することが好きな猫」という猫になるんだろ思います)。
ただ、もしこの子猫が、「不治の病」だったら。
猫エイズにかかっていたら。
うちの猫は予防接種は受けていますから、予防接種で防げる病気にかかってるなら、それなら、子猫はOKなんです。
でも、不治の病で、レニにその病気が伝染して、死んだりしたら、私はいったい、どうしたらいいんでしょう?
自分の落ち度のために、レニを死なせるということになってしまいます。

悩みながら、公園の近所にあるペット美容室さんに相談に行きました。
いやよく、猫関係で相談に行くお店なのです。
捨て子猫がいつ捨てられていたものか、情報も知りたかったし。
そしたら、「その子猫は知らないから、今日捨てられたんじゃないかしら」と、女性の店長さんはいいました。このごろ、大きいのから小さいのから、いろいろ捨てに来ているようだというのです。春は引っ越しの季節だからかなあ?
「今拾おうかどうしようか悩んでいる」という話を素直にして、そうして私はうちに帰りました。

ここで、「かわいそうだから、いろいろ考えずに拾う」という選択ができない私は、本当の動物好きではないのだろうと思います。
そんな自分がうっとうしくて、いやになります。
私はもっと、「動物的に」優しい人間でありたかった。
後先を考えずに優しい行動を選択できる人たちが、私は本当に好きなのです。

どんよりした気分で、悩んでいると、キッチンの窓から見える空は、どんどん泣き出しそうに曇っていきます。
子猫のことを、私は考え続けました。
いろいろと家にある猫の病気の本を読み直しながら。
こういうときの常で、暗い予想へと思いは向いて行きます。
もしかして、あの猫の目が、内科的な病気じゃなくて、目の病気やけがだった場合、最悪の場合は、眼球摘出なんてことになるのかしら、と思いました。その場合、手術のお金はどれくらいかかるのでしょう?
猫エイズの検査をしてもらうとして、結果が出るまでのあいだ、病院に入院させるのは無理なんだろうか? もし猫エイズだった場合は、すでに発病しているとしたら、安楽死をたのんだ方がいいのかも知れない…。

どっちにしろ、お金がかかるなあ。と思いました。
猫の病院代は保険がありません。底なしにお金がかかるのです。
一回おなかを壊しただけで、数千円から一万円かかるのが猫なのです。
手術なんていったら、いくらかかるんだろう?
宵越しの金が持たないのがモットーで、おまけに貧乏作家の私です。
銀行には、25日の猫の納骨に必要なお金と、月末に引き落とされるお金くらいしかとっておいていないのでした。

で。私はここで、P社に電話をかけました。
「ルルー6」のスケジュールについてのメールがちょうどはいっていたので、そのことについても話したかったし、ちょうど、「ルルー5」の印税がそろそろ入る予定だったので、具体的に何日に入るものか、知りたいと思ったのです。それに、ほんとに今月はいるのか、調べておきたくて。私は心配性なのです。
若き猫好き編集者のNさんは、いろいろ猫の話を聞いてくれた上、経理の人に振り込みの日を確認してくれました。
振り込みの日にちは、火曜日。27日でした。

それならOKだと思いました。
とりあえず、子猫の病気がなんだとしても、手持ちのお金で、治療は開始できる。27日にお金が入るとわかった以上、得意の話術(笑)で、後払いにでもなんでもしてもらって、徹底的に治療してやろう。
そして、もし、不治の病にかかっていたら。
そのときは、獣医さんにたのんで、この手の中で、安楽死を。
納骨堂には、ランコのほかにまだ猫が入れるスペースはあることだし。

そこまで考えて、春物のコートを着て、いつものリュックを背負うと。
これが気分が明るくなったのですね。
よし、やるぞ、ってかんじ。
ランコの代わりに、子猫を救ってあげるんだ、と、思ったのです。
ちょうど、その朝に、K社のH氏から、仕事がらみのことで、ちょこっとうれしい電話があったところでした。そういう私なのだから、猫の一匹くらい救う経済力も気力も体力もあるはずだ! そうでなければいけないんだ!
台湾の言い伝えに、「家に迷い込んできた猫は福の神で、その人に猫を飼うだけの財力があると思うから来るんだ」というのがたしかあったじゃないか! いや私の場合はうちに迷い込んできたわけじゃないけど、なんとかなるはずよ!

いやー。
そこまで盛り上がって、公園に行ったんですよ。
そしたら、もう、子猫はいなかったわけ。
犬のサブちゃんもいない。
えーっと思って、探し回って、ペット美容室へ聞きにいきました。
何か知らないかなあと思って。
そしたら、サブちゃんの飼い主が、子猫をいっしょに家に連れて帰ったんですって。めでたしめでたし。
まあたしかに、犬と猫と寄り添って眠るあのようすを見たら、あたたかい心の持ち主なら引き離せなくなりますね(^^;)。

私のような、心配性で、冷たい動物好きよりも、子猫は、サブちゃんの飼い主さんのところに引き取られて、幸せだったんだと思います。

今夜の長崎は、春の嵐です。
強い風が吹いて、ベランダの植木が枝を鳴らしています。
雨も強い音を立てて降っています。
子猫が公園で夜を明かすことにならなくて、本当によかった。
今頃は、こたつで寝ているのかな?
それとも、おそばやの店員さんの腕枕で寝てるのかな?

ちなみに、美容室の人の見立てによると、「あれはどうみても、生後半年はいっている猫だと思う。雄でした」とのことでした。
うーん。私には子猫に見えたのになあ?
レニが大きいから、縮尺が狂っているのかも?





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