6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2007年04月18日(水)   狙撃手は俯いて笑う

忘れた頃に。
こっそりと密やかに、捧げちゃっ隊、発動。

Yナギさんに捧ぐ「サイさん→バトグサ」話です。
SSS風味で、トグ隊長就任直後っぽい雰囲気な話になりました。
ワオ。

これは以前、Yナギさんに捧げますよ!と大言壮語してしまった話だったりします。
(↑大風呂敷を広げすぎた自覚アリアリだった模様)
短文ながらも、なんとか書き上げるに至りました。

サイさんを格好良く書こう、と必死になったのが、アダになったようで(笑)
思い入れを強くすると、筆が迷う罠です。
フ。フフ。

しかし、それにしても、遅ッ・・過ぎ・・だロ・・・・・・orz
書き上げるまでの時間が長すぎですよ、自分。
もう、どれだけ日にちが経ったのかすら、不明ですもの・・・(痛)

Yナギさんにしてみても、いきなり、忘れた頃に捧げられても困るというものです。
まったく、迷惑な話ですね。 ←何故か他人事

Yナギさん、本当にあらゆる意味でスミマセン!!!((orz ペコペコ
でも、精一杯の愛をこめたので、受け取っていただければ。
幸いです。



いやー、私としては珍しい。
「サイさん→バトグサ」な話ですよ。
いやー、どうなんだろう。
読むのは好きでも、書くのは難しいと悟った、一本(笑)













































事件もなく、仮初の平和を漂わせた、曇り空の日。

銃器類の手入れを終え、射撃室に顔を出したサイトーは、そこに一人の男を見つけた。
白いシャツ、幾分か短くなった茶色の髪、その後姿。

「セブロで射撃練習か、トグサ」

構えている銃が、あれほど拘っていたマテバでないことに気付いたサイトーは、そう声をかけた。
隊長という職に就いた今も、この男は現場に立つことを優先させている。
書類仕事に追われながらも、射撃訓練を隙を見ては行っている事をサイトーは知っていたが、その姿を捉えたのは今日が初めてだった。

「サイトー」

振り返り、握る銃把にかかる指を少し動かして見せたトグサは、真剣な目をしていた。

「少しでも慣れておきたくてね」
「義体は、どうだ?」

生身だったトグサは身体の一部を義体化した。
隊長になった事の他に、この男が大きく変わった要因は、それに尽きる。
生身にも拘っていたはずのトグサは、今握っているセブロのように、あっさりと義体化に踏み切っていた。
いや、どれほどの深い葛藤を越えたのか。
一部でも、生身であった部分を捨てたのだから、思い迷わないことはない。
サイトー自身はそれほどの執着はなかったが、トグサの様な男はそうはいかない。
この男は、思い迷いながら、執着を持つことで、己を高めコントロールしているところがあった。
昔なら感情を露わに、そして、隠す事をしていなかったトグサが、今回に至っては。
物の見事に、己を隠し通し、誰にもそのことを読ませなかった。
サイトーですら、読み通す事が出来なかった。

「リハビリには辟易したけど、感覚は掴めたかな。やっと自分に馴染んできた気がする。思考と誤差なく指は動くようになったし」
「そうか」

何でもないことのように語るトグサに、サイトーは頷いた。
その感覚を得るまでに、どれほどの苦痛と苦悩があったのか。
しかし、それを周囲に見せるでなく、この男は淡々と乗り越えていった。
優しい見てくれに反して、強情で意固地、負けず嫌いなゴーストがそうさせるのかもしれない。
そして。
護るという行為の為なら、どんなことも厭いはせず、躊躇いもまた、ないのだろう。
この男が銃を握る理由、それは護る為に闘うという意味以外ない、とそうサイトーは思っている。
自分とはまるで正反対のトグサという男は、サイトーにとって、見ていて好ましい男だった。
自分には持ち得ないモノを持っていながら、それを妬むとか羨むとか、そういう負の感情を抱かせず、実に潔い心持にさせてくれるからだ。

サイトーは壁に背を預け、腕を組むと、トグサを顎で促した。
せっかく得る事の出来た貴重な時間を、邪魔しては申し訳ないと思った。
それに、頷いたトグサはゆっくりとした動作でセブロを構え、照準を絞る。
節くれた細くも太くもない指が、正確に動き、引き金が引かれた。
銃口が腹の底に響く音とともに弾を吐き出し、的を的確に撃ち抜く。

「ふん、悪くないな」

サイトーはそう言って、トグサの訓練の成果を認めた。
狙撃銃だけでなく、あらゆる銃器の扱いに特化しているサイトーに褒められた事がよほど嬉しかったのか。
トグサは久しく見せない、笑顔を浮かべ、振り返った。
隊長に就任して以来、これほど屈託のない、以前のような表情を見たことは無かった。
サイトーも、それに口許に笑みを浮かべて返す。

「サイトーにそう言ってもらえれば、一安心だ」

柔らかい声で、素直な言葉を口にするトグサに、安堵した。
変わったのではない、変わろうと努力しているのだ。
この男なりに。
護る為に。

何の為にか。

それはあえて、サイトーは考えなかった。
消えた女と、追う男。
この二人が係わっている事だけは確実だろうが。


「トグサ、まだ無理はするな」


気配もなく現れた男の重低音が射撃室に響き渡ったのは、サイトーが思考の海に浸ろうとした、そんな時だった。
声のする方を振り仰ぎ、そこに、こちらを見ている義眼を見出す。
バトーだ。
それをちらりと見たトグサは、視線を逸らしてから、小さく頷いた。

「──ああ」

トグサの表情が、一瞬で硬質のものに変化するのをサイトーは見た。
己に甘えを許さない、不器用に一途で、真摯な男。
もう少し、甘えてもいいんじゃねえか。
サイトーは心の内で苦笑した。

「何か用か、バトー」
「・・・課長が呼んでる」
「解った」

そこには簡潔に、何の感情も挟まぬ、二人が対峙する姿があった。
サイトーは静かに、傍観者の位置に立つ。
セブロを脇のホルスターに収め、傍らに置いてあったスーツの上着を取ると、トグサは振り返りもせず、射撃室から出て行った。
バトーと擦れ違う、その一瞬にも、トグサは視線すら合わせることはなかった。
その背を黙ったまま見送るバトーの姿に。
サイトーは思わず笑みを漏らした。

何てことだろう。
過酷な戦場を戦い抜いたレンジャー出の大男が。
感情を殺す事に馴れたはずの男が。
そんな感情だだ洩れの背を、他人に見せるなんて。

電通で全てが済むだろうに、わざわざこんな所まで足を運んだのは。
隊長になろうと足掻く男が、ただただ、心配だからじゃないか。
自分勝手に単独行動をし、トグサを翻弄するくせに。
何故、そんな、寂しげに立つのだ。
背が、バトーの内側を曝け出していた。
この義眼の大男も、ある意味、トグサと同じなのだ。
己に甘えを許せず、不器用なまでに一途で、真摯な男。

声を殺したはずだったが、高性能義体の男の耳には聴こえてしまったらしい。
苦虫を噛み潰したようなカオをして、バトーがこちらを見おろしていた。

「バトー」
「なんだ」

サイトーは不愉快を丸出しにしたバトーに怯みもせず、問いかけた。
長い付き合いだ。
このくらいで、言葉を途切らせるサイトーではなかった。

「お前達、どうなってるんだ?」

バトーとトグサは面白い関係だ。
サイボーグと生身。
教官と訓練生。
同僚、相棒。
今は、部下と隊長という逆転した関係。
それから。
二人の間にある、他人には触れることの出来ない深い繋がり。
それが在ることを、サイトーは感じ取っていた。
野生の嗅覚とでもいおうか。
それともスナイパー特有の感覚とでもいおうか。
最も効果的に相手を狙撃できる場所の選択、相手を取り巻く環境、変化への対応。
天候、風の流れ、それによって受ける空気抵抗、摩擦。弾道。
視線、感情の動き、動作の予測。
そんな事を常日頃から、念頭において生きているせいかもしれない。

「─────どういう意味だ」

暫しの間。
眉間を寄せたバトーの口から、低く地を這うような声が吐き出された。
サイトーは冷えた義眼が間違いなく、自分を見ていることを感じ、また笑い出したくなった。

「お前、今、何を考えた?」
「───────」

バトーの眉間に刻まれた皺が深くなる。
口許が薄っすらと歪むのを、サイトーは残された片方の目で、興味深げに観察した。

「そういう意味で、だ」

真実から遠回りするようにはぐらかし、バトーに会話を続けるように促す。

「それから、あらゆる意味で、とも言っておくか」

バトーは答えない。
ただ、サイトーを睨み、黙っている。
わざとらしく小さく息を吐いてから、口の端を引き上げてみせた。

「寂しかったら、俺が相手してやろうか?レンジャー」

からかいを隠しもせず、言葉に乗せると、バトーの低音が吐き出された。

「・・・スナイパーは寡黙が売りじゃなかったのか」

感情を無理に消したバトーは、それでも、言葉に隠し切れぬ感情を滲ませていた。
そして、先程のトグサと同じように、振り返りもせずに出て行った。



「つれねぇな、バトー」



サイトーはふと俯くと、静かに笑って、バトーの後姿が消えた扉から目を逸らした。




狙撃手の心が放った言葉。
それが何を狙っていたのか。

狙撃手の手の内。
誰もそれを、知る事は出来ない。













END


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武藤なむ