忘れた頃に。 こっそりと密やかに、捧げちゃっ隊、発動。
Yナギさんに捧ぐ「サイさん→バトグサ」話です。 SSS風味で、トグ隊長就任直後っぽい雰囲気な話になりました。 ワオ。
これは以前、Yナギさんに捧げますよ!と大言壮語してしまった話だったりします。 (↑大風呂敷を広げすぎた自覚アリアリだった模様) 短文ながらも、なんとか書き上げるに至りました。
サイさんを格好良く書こう、と必死になったのが、アダになったようで(笑) 思い入れを強くすると、筆が迷う罠です。 フ。フフ。
しかし、それにしても、遅ッ・・過ぎ・・だロ・・・・・・orz 書き上げるまでの時間が長すぎですよ、自分。 もう、どれだけ日にちが経ったのかすら、不明ですもの・・・(痛)
Yナギさんにしてみても、いきなり、忘れた頃に捧げられても困るというものです。 まったく、迷惑な話ですね。 ←何故か他人事
Yナギさん、本当にあらゆる意味でスミマセン!!!((orz ペコペコ でも、精一杯の愛をこめたので、受け取っていただければ。 幸いです。
いやー、私としては珍しい。 「サイさん→バトグサ」な話ですよ。 いやー、どうなんだろう。 読むのは好きでも、書くのは難しいと悟った、一本(笑)
事件もなく、仮初の平和を漂わせた、曇り空の日。
銃器類の手入れを終え、射撃室に顔を出したサイトーは、そこに一人の男を見つけた。 白いシャツ、幾分か短くなった茶色の髪、その後姿。
「セブロで射撃練習か、トグサ」
構えている銃が、あれほど拘っていたマテバでないことに気付いたサイトーは、そう声をかけた。 隊長という職に就いた今も、この男は現場に立つことを優先させている。 書類仕事に追われながらも、射撃訓練を隙を見ては行っている事をサイトーは知っていたが、その姿を捉えたのは今日が初めてだった。
「サイトー」
振り返り、握る銃把にかかる指を少し動かして見せたトグサは、真剣な目をしていた。
「少しでも慣れておきたくてね」 「義体は、どうだ?」
生身だったトグサは身体の一部を義体化した。 隊長になった事の他に、この男が大きく変わった要因は、それに尽きる。 生身にも拘っていたはずのトグサは、今握っているセブロのように、あっさりと義体化に踏み切っていた。 いや、どれほどの深い葛藤を越えたのか。 一部でも、生身であった部分を捨てたのだから、思い迷わないことはない。 サイトー自身はそれほどの執着はなかったが、トグサの様な男はそうはいかない。 この男は、思い迷いながら、執着を持つことで、己を高めコントロールしているところがあった。 昔なら感情を露わに、そして、隠す事をしていなかったトグサが、今回に至っては。 物の見事に、己を隠し通し、誰にもそのことを読ませなかった。 サイトーですら、読み通す事が出来なかった。
「リハビリには辟易したけど、感覚は掴めたかな。やっと自分に馴染んできた気がする。思考と誤差なく指は動くようになったし」 「そうか」
何でもないことのように語るトグサに、サイトーは頷いた。 その感覚を得るまでに、どれほどの苦痛と苦悩があったのか。 しかし、それを周囲に見せるでなく、この男は淡々と乗り越えていった。 優しい見てくれに反して、強情で意固地、負けず嫌いなゴーストがそうさせるのかもしれない。 そして。 護るという行為の為なら、どんなことも厭いはせず、躊躇いもまた、ないのだろう。 この男が銃を握る理由、それは護る為に闘うという意味以外ない、とそうサイトーは思っている。 自分とはまるで正反対のトグサという男は、サイトーにとって、見ていて好ましい男だった。 自分には持ち得ないモノを持っていながら、それを妬むとか羨むとか、そういう負の感情を抱かせず、実に潔い心持にさせてくれるからだ。
サイトーは壁に背を預け、腕を組むと、トグサを顎で促した。 せっかく得る事の出来た貴重な時間を、邪魔しては申し訳ないと思った。 それに、頷いたトグサはゆっくりとした動作でセブロを構え、照準を絞る。 節くれた細くも太くもない指が、正確に動き、引き金が引かれた。 銃口が腹の底に響く音とともに弾を吐き出し、的を的確に撃ち抜く。
「ふん、悪くないな」
サイトーはそう言って、トグサの訓練の成果を認めた。 狙撃銃だけでなく、あらゆる銃器の扱いに特化しているサイトーに褒められた事がよほど嬉しかったのか。 トグサは久しく見せない、笑顔を浮かべ、振り返った。 隊長に就任して以来、これほど屈託のない、以前のような表情を見たことは無かった。 サイトーも、それに口許に笑みを浮かべて返す。
「サイトーにそう言ってもらえれば、一安心だ」
柔らかい声で、素直な言葉を口にするトグサに、安堵した。 変わったのではない、変わろうと努力しているのだ。 この男なりに。 護る為に。
何の為にか。
それはあえて、サイトーは考えなかった。 消えた女と、追う男。 この二人が係わっている事だけは確実だろうが。
「トグサ、まだ無理はするな」
気配もなく現れた男の重低音が射撃室に響き渡ったのは、サイトーが思考の海に浸ろうとした、そんな時だった。 声のする方を振り仰ぎ、そこに、こちらを見ている義眼を見出す。 バトーだ。 それをちらりと見たトグサは、視線を逸らしてから、小さく頷いた。
「──ああ」
トグサの表情が、一瞬で硬質のものに変化するのをサイトーは見た。 己に甘えを許さない、不器用に一途で、真摯な男。 もう少し、甘えてもいいんじゃねえか。 サイトーは心の内で苦笑した。
「何か用か、バトー」 「・・・課長が呼んでる」 「解った」
そこには簡潔に、何の感情も挟まぬ、二人が対峙する姿があった。 サイトーは静かに、傍観者の位置に立つ。 セブロを脇のホルスターに収め、傍らに置いてあったスーツの上着を取ると、トグサは振り返りもせず、射撃室から出て行った。 バトーと擦れ違う、その一瞬にも、トグサは視線すら合わせることはなかった。 その背を黙ったまま見送るバトーの姿に。 サイトーは思わず笑みを漏らした。
何てことだろう。 過酷な戦場を戦い抜いたレンジャー出の大男が。 感情を殺す事に馴れたはずの男が。 そんな感情だだ洩れの背を、他人に見せるなんて。
電通で全てが済むだろうに、わざわざこんな所まで足を運んだのは。 隊長になろうと足掻く男が、ただただ、心配だからじゃないか。 自分勝手に単独行動をし、トグサを翻弄するくせに。 何故、そんな、寂しげに立つのだ。 背が、バトーの内側を曝け出していた。 この義眼の大男も、ある意味、トグサと同じなのだ。 己に甘えを許せず、不器用なまでに一途で、真摯な男。
声を殺したはずだったが、高性能義体の男の耳には聴こえてしまったらしい。 苦虫を噛み潰したようなカオをして、バトーがこちらを見おろしていた。
「バトー」 「なんだ」
サイトーは不愉快を丸出しにしたバトーに怯みもせず、問いかけた。 長い付き合いだ。 このくらいで、言葉を途切らせるサイトーではなかった。
「お前達、どうなってるんだ?」
バトーとトグサは面白い関係だ。 サイボーグと生身。 教官と訓練生。 同僚、相棒。 今は、部下と隊長という逆転した関係。 それから。 二人の間にある、他人には触れることの出来ない深い繋がり。 それが在ることを、サイトーは感じ取っていた。 野生の嗅覚とでもいおうか。 それともスナイパー特有の感覚とでもいおうか。 最も効果的に相手を狙撃できる場所の選択、相手を取り巻く環境、変化への対応。 天候、風の流れ、それによって受ける空気抵抗、摩擦。弾道。 視線、感情の動き、動作の予測。 そんな事を常日頃から、念頭において生きているせいかもしれない。
「─────どういう意味だ」
暫しの間。 眉間を寄せたバトーの口から、低く地を這うような声が吐き出された。 サイトーは冷えた義眼が間違いなく、自分を見ていることを感じ、また笑い出したくなった。
「お前、今、何を考えた?」 「───────」
バトーの眉間に刻まれた皺が深くなる。 口許が薄っすらと歪むのを、サイトーは残された片方の目で、興味深げに観察した。
「そういう意味で、だ」
真実から遠回りするようにはぐらかし、バトーに会話を続けるように促す。
「それから、あらゆる意味で、とも言っておくか」
バトーは答えない。 ただ、サイトーを睨み、黙っている。 わざとらしく小さく息を吐いてから、口の端を引き上げてみせた。
「寂しかったら、俺が相手してやろうか?レンジャー」
からかいを隠しもせず、言葉に乗せると、バトーの低音が吐き出された。
「・・・スナイパーは寡黙が売りじゃなかったのか」
感情を無理に消したバトーは、それでも、言葉に隠し切れぬ感情を滲ませていた。 そして、先程のトグサと同じように、振り返りもせずに出て行った。
「つれねぇな、バトー」
サイトーはふと俯くと、静かに笑って、バトーの後姿が消えた扉から目を逸らした。
狙撃手の心が放った言葉。 それが何を狙っていたのか。
狙撃手の手の内。 誰もそれを、知る事は出来ない。
END
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