2006年12月17日(日) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <十弐> |
久々の更新なので。 昨日のスペースも利用して、二本、アゲてみる心意気。
心に溜まった不純物(主な成分=怒)は。 萌えとして昇華。 うむ、正しい心の動きだ。
いいぞ、自分!建設的!!(`∀´)ノ
十弐、言伝
どれだけの時間が経ったのか。 静寂の時を打ち砕く音が、兎草達を覆った。 ガツリ、ガツリと、コンクリートが身を削られ悲鳴を上げる。 「お、どうやら奴も、この中に俺達がいるって事に、考えが至ったみたいだぞ」 ここを壊そうとし始めた妖しの鳥の殺気に、馬濤の口許が嬉しげに歪んだ。 それに兎草は心底、困ったと思った。 立て篭もりも、こうなると危険で、次の手を打たねばならない。 「さて、どうしたものかな。俺じゃ、役に立たないしなぁ」 独り言の様に呟いた兎草の言葉を、馬濤が拾い上げる。 「だから、さっきも言ったろうが?闘うのは俺の役目だっつーの。お前が役に立つ、立たない以前のハナシだろ」 「・・・なんか、むしょうに腹が立つんだけど」 自分で思っていても、他人に、というより馬濤に改めて言われると、余計に腹が立つのは、何故なのか。 兎草は、むっつりと頬を膨らませた。 「兎草、お前はチビとここにいろ。俺が片付けてくるからよ、さくっと」 「え、ちょっと待てよ、馬濤」 何故かは解らないが、兎草はとっさに馬濤を引き止めてしまっていた。 「なんで待つ必要があるんだ」 馬濤が口をへの字にして見下ろしてくる。 そう。 確かに、鬼喰いに闘ってもらうしか、手はないだろうに。 兎草は、自分で吐き出した言葉に首を傾げながら、思案にくれた。
そんな中でまた、一際大きな音がして、黒い鳥がコンクリートを削っていく。 緊迫の空気、そして混乱する兎草の思考を。
≪呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャァ〜ン♪≫
やけに陽気な声が断ち切った。 楽しげに弾む子供の声は、嫌になるくらい聞き覚えがあるもので。 兎草は、呼んでない!と即座に突っ込みを入れたい衝動にかられたが、声のする場所を振り仰ぎ、その姿がいつもの蒼い光ではない事に度肝を抜かれて。 「たっ、断駒ッ・・・って、お前、何、その格好??」 突っ込むタイミングを逸してしまった。
目の前に浮くのは、丸いまるい、犬。
そう、それは出掛ける時に大輔から渡された、あの根付の犬の姿だった。 兎草は唖然とその姿を見た。
断駒は形を持たない、力の結晶、光だ。
常に兎草の目には蒼い光として、映っている。 けれど、稀に。 蜘蛛の形や、鳥の形になり大輔の用事を済ませていることがあった。 どうやら、今回は憑いた物の形をそのまま拝借したらしい。 「お、お前なぁ・・・」 この非常時に、なんでこんな、オマケがついてくるのか。 緊張に強張った兎草の身体から、力が抜けた。 でも。 もし、大輔がこれを知っていて、なお持たせたのだとしたら。 もしくは。 これを持たせる事こそが、目的だったとしたなら。 それは、何を意味するんだろう。 苦々しい表情をしながらも、兎草はそこに思い至った。
馬濤は、さして驚いた様子も無く、それを静かに眺めている。
そんな二人を尻目に、唯一、喜びの声をあげたのは美希だ。 「うわぁ!かわいいッわんちゃん!!」 そりゃあ、可愛い子犬がいたら、喜ぶのが当然だろう。 たとえ、それが、ふわふわと浮いていようとも。 異様に丸っこくとも。 「おいで!わんちゃん、こっちにおいで」 下りておいでと、美希が腕を広げて呼ぶのに、 ≪僕、わんちゃんじゃないよ〜?断駒っていうんだよー??≫ 犬の姿の断駒が、困惑した声色になった。 「たちこまちゃんっていうのね!あのね、わたしはみきよ」 美希はそう言って、子供らしい笑顔を浮かべた。 それに興味をそそられたのか断駒は抵抗する事もなく、自分を呼ぶ小さな少女のもとへ向かった。
兎草は、成す術なく、それを見る。 表情は、険しい。 大輔の眷属であるこの光(正確には、達、は)時々。 兎草の持ち物にこっそり取り憑いては、外の世界に飛び出し、あれこれ拾って来るという悪癖を持ってしまっていた。 その度に、兎草が被害をこうむる訳なのだが、それが今思い起こされて。 なんとなく、気分が悪い。 しかし、多分、そんな事ではないと内なる声がしている。 あれこれと、気になる事ばかり、それは確かな事で。 この光が答えを知っているのだ。 兎草は、盛大に溜息を吐いて気分を変え、浮遊する断駒を見上げた。 ちゃんと話を訊き出さなくてはなるまい。 「断駒。お前、なんで根付に憑いてきたんだ?」 そう、この根付は、大輔が持たせた物。 何故、なのか。 そこから、問い質さなくては。 兎草は腕組みしながら、断駒に問うた。 すると、 ≪今日は別に、悪戯で憑いてきたんジャないよ〜!≫ 美希の傍をふわふわと漂いながら、断駒は元気よく、答える。 ≪僕だけの特別任務なの〜〜♪≫ 「何だよ、それ・・・?」 その言葉に、兎草は辺りを見回した。 確かに、良く視ても、紅い光の淵駒が居る気配がない。 単体の光が在るばかりだ。 ≪家長に命じられたからに決まってるでしょ≫ あっさりとそう言って、断駒が宙にゆらめく。 どうやら、それは本当のことのようだ。 自分達の主である大輔の名を出す時、断駒たちは決してふざけたりはしない。 という事は、やはり。 これはきちんとした意味があって、持たされた物なのだ。 兎草は続けて、そこに宿る理由を問おうとして。 「──ところで。何で、その格好のままなんだよ?」 未だに元の姿にならず、犬のままでいる断駒に、その事を訊いた。 すると、 ≪面白いから?≫ という言葉が返ってきて、また、脱力してしまう。 訊かなきゃよかった──兎草は、小さく首を振った。 そんな兎草に、断駒がきゃあきゃあと舞い踊る。 ≪兎草クンたら、ほんとに鈍いんだよね。僕、ずっとあの中にはいってたのにさ。全然、気付かないんだもの〜〜♪≫ その通りで。 全く、露ほども、気付いてなかった兎草は憮然とした表情になった。 ≪馬濤さんはちゃんと気付いてたのにね〜?≫ 断駒のその言葉に、 「嘘つけ!」 怒鳴りながら目の前の馬濤を見ると、ニヤーと嫌な笑いをされ肩を竦められてしまった。 知ってましたよ、とそんな風に言われ、兎草はとうとうむっつりと口を引き結んだ。 これ以上、馬鹿にされるのはゴメンだとばかりに。 そんな兎草に笑いながら、馬濤が先を促す。 「まぁまぁ、兎草が鈍いのは今に始まったコトじゃねえだろ。家長が何だって?断駒」 ≪はいは〜い。じゃあ、家長の言葉を伝えるよ?ええとね・・・≫
蒼い光を放つ犬が、兎草の知りたい事を語りだした。
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