6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2006年12月17日(日)   鬼の守人 ─嚆矢─  <十弐>

久々の更新なので。
昨日のスペースも利用して、二本、アゲてみる心意気。

心に溜まった不純物(主な成分=怒)は。
萌えとして昇華。
うむ、正しい心の動きだ。

いいぞ、自分!建設的!!(`∀´)ノ


















































十弐、言伝



どれだけの時間が経ったのか。
静寂の時を打ち砕く音が、兎草達を覆った。
ガツリ、ガツリと、コンクリートが身を削られ悲鳴を上げる。
「お、どうやら奴も、この中に俺達がいるって事に、考えが至ったみたいだぞ」
ここを壊そうとし始めた妖しの鳥の殺気に、馬濤の口許が嬉しげに歪んだ。
それに兎草は心底、困ったと思った。
立て篭もりも、こうなると危険で、次の手を打たねばならない。
「さて、どうしたものかな。俺じゃ、役に立たないしなぁ」
独り言の様に呟いた兎草の言葉を、馬濤が拾い上げる。
「だから、さっきも言ったろうが?闘うのは俺の役目だっつーの。お前が役に立つ、立たない以前のハナシだろ」
「・・・なんか、むしょうに腹が立つんだけど」
自分で思っていても、他人に、というより馬濤に改めて言われると、余計に腹が立つのは、何故なのか。
兎草は、むっつりと頬を膨らませた。
「兎草、お前はチビとここにいろ。俺が片付けてくるからよ、さくっと」
「え、ちょっと待てよ、馬濤」
何故かは解らないが、兎草はとっさに馬濤を引き止めてしまっていた。
「なんで待つ必要があるんだ」
馬濤が口をへの字にして見下ろしてくる。
そう。
確かに、鬼喰いに闘ってもらうしか、手はないだろうに。
兎草は、自分で吐き出した言葉に首を傾げながら、思案にくれた。

そんな中でまた、一際大きな音がして、黒い鳥がコンクリートを削っていく。
緊迫の空気、そして混乱する兎草の思考を。

≪呼ばれて飛び出て、ジャジャジャジャァ〜ン♪≫

やけに陽気な声が断ち切った。
楽しげに弾む子供の声は、嫌になるくらい聞き覚えがあるもので。
兎草は、呼んでない!と即座に突っ込みを入れたい衝動にかられたが、声のする場所を振り仰ぎ、その姿がいつもの蒼い光ではない事に度肝を抜かれて。
「たっ、断駒ッ・・・って、お前、何、その格好??」
突っ込むタイミングを逸してしまった。

目の前に浮くのは、丸いまるい、犬。

そう、それは出掛ける時に大輔から渡された、あの根付の犬の姿だった。
兎草は唖然とその姿を見た。

断駒は形を持たない、力の結晶、光だ。

常に兎草の目には蒼い光として、映っている。
けれど、稀に。
蜘蛛の形や、鳥の形になり大輔の用事を済ませていることがあった。
どうやら、今回は憑いた物の形をそのまま拝借したらしい。
「お、お前なぁ・・・」
この非常時に、なんでこんな、オマケがついてくるのか。
緊張に強張った兎草の身体から、力が抜けた。
でも。
もし、大輔がこれを知っていて、なお持たせたのだとしたら。
もしくは。
これを持たせる事こそが、目的だったとしたなら。
それは、何を意味するんだろう。
苦々しい表情をしながらも、兎草はそこに思い至った。

馬濤は、さして驚いた様子も無く、それを静かに眺めている。

そんな二人を尻目に、唯一、喜びの声をあげたのは美希だ。
「うわぁ!かわいいッわんちゃん!!」
そりゃあ、可愛い子犬がいたら、喜ぶのが当然だろう。
たとえ、それが、ふわふわと浮いていようとも。
異様に丸っこくとも。
「おいで!わんちゃん、こっちにおいで」
下りておいでと、美希が腕を広げて呼ぶのに、
≪僕、わんちゃんじゃないよ〜?断駒っていうんだよー??≫
犬の姿の断駒が、困惑した声色になった。
「たちこまちゃんっていうのね!あのね、わたしはみきよ」
美希はそう言って、子供らしい笑顔を浮かべた。
それに興味をそそられたのか断駒は抵抗する事もなく、自分を呼ぶ小さな少女のもとへ向かった。

兎草は、成す術なく、それを見る。
表情は、険しい。
大輔の眷属であるこの光(正確には、達、は)時々。
兎草の持ち物にこっそり取り憑いては、外の世界に飛び出し、あれこれ拾って来るという悪癖を持ってしまっていた。
その度に、兎草が被害をこうむる訳なのだが、それが今思い起こされて。
なんとなく、気分が悪い。
しかし、多分、そんな事ではないと内なる声がしている。
あれこれと、気になる事ばかり、それは確かな事で。
この光が答えを知っているのだ。
兎草は、盛大に溜息を吐いて気分を変え、浮遊する断駒を見上げた。
ちゃんと話を訊き出さなくてはなるまい。
「断駒。お前、なんで根付に憑いてきたんだ?」
そう、この根付は、大輔が持たせた物。
何故、なのか。
そこから、問い質さなくては。
兎草は腕組みしながら、断駒に問うた。
すると、
≪今日は別に、悪戯で憑いてきたんジャないよ〜!≫
美希の傍をふわふわと漂いながら、断駒は元気よく、答える。
≪僕だけの特別任務なの〜〜♪≫
「何だよ、それ・・・?」
その言葉に、兎草は辺りを見回した。
確かに、良く視ても、紅い光の淵駒が居る気配がない。
単体の光が在るばかりだ。
≪家長に命じられたからに決まってるでしょ≫
あっさりとそう言って、断駒が宙にゆらめく。
どうやら、それは本当のことのようだ。
自分達の主である大輔の名を出す時、断駒たちは決してふざけたりはしない。
という事は、やはり。
これはきちんとした意味があって、持たされた物なのだ。
兎草は続けて、そこに宿る理由を問おうとして。
「──ところで。何で、その格好のままなんだよ?」
未だに元の姿にならず、犬のままでいる断駒に、その事を訊いた。
すると、
≪面白いから?≫
という言葉が返ってきて、また、脱力してしまう。
訊かなきゃよかった──兎草は、小さく首を振った。
そんな兎草に、断駒がきゃあきゃあと舞い踊る。
≪兎草クンたら、ほんとに鈍いんだよね。僕、ずっとあの中にはいってたのにさ。全然、気付かないんだもの〜〜♪≫
その通りで。
全く、露ほども、気付いてなかった兎草は憮然とした表情になった。
≪馬濤さんはちゃんと気付いてたのにね〜?≫
断駒のその言葉に、
「嘘つけ!」
怒鳴りながら目の前の馬濤を見ると、ニヤーと嫌な笑いをされ肩を竦められてしまった。
知ってましたよ、とそんな風に言われ、兎草はとうとうむっつりと口を引き結んだ。
これ以上、馬鹿にされるのはゴメンだとばかりに。
そんな兎草に笑いながら、馬濤が先を促す。
「まぁまぁ、兎草が鈍いのは今に始まったコトじゃねえだろ。家長が何だって?断駒」
≪はいは〜い。じゃあ、家長の言葉を伝えるよ?ええとね・・・≫


蒼い光を放つ犬が、兎草の知りたい事を語りだした。


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武藤なむ