2006年12月16日(土) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <十壱> |
久々の更新は、やはり、鬼で。
日常で、嫌な事があっても。 こうして、楽しく、書くことが出来る。 それで、満足。 書いてる内に、現状の何かが、投影されて。 少し、話の形が変わった模様。
現時点で、書けてる話、予定数より増。 ワァ、案の定(゜∀゜)
十壱、繋糸
十階分の階段を少女を抱きかかえて屋上まで上がった兎草は、救いの扉の前に立った。 美希をその扉の前に下ろすと、ぜぃぜぃと荒い息を繰り返しながら、それでも馬濤に鍵を壊すように頼む。 事情を話せば修理代金は請求されないだろうから、勢いよく壊してもらう事にした。 今は、ここに入ることが最優先事項なのだ。
施錠されていた鍵は、馬濤の大きな手が一撫でした途端、歪な音を立てて壊れた。 それに頷いて、兎草はすぐさま、美希を連れて中に入った。 心理的に自分たちを守れる様に、そして物理的な妖しへの壁が欲しかったのだ。
見えないモノは、視覚的、物理的にも存在しない。 が。 それが視える者達にとっては、そこに確実に、存在しているのモノになる。
兎草には馬濤は視えるし、触れる。 無いモノではない。 まるで、熱さえも伝えるくらいの存在感を示すモノとして感じている。 それと同じ事が、あの妖しにもいえるのだ。 だから、存在するモノから身を隠すには、ここに隠れる事は有効だった。 いずれ、見つかり、攻撃を受ける事になっても。
真四角の空間。三つの道。 建物の内部へ続く階段、屋上への扉、そして先程入ってきた、非常階段からの扉。 選ぶのは一つの道だけだが、今は。 少し広くなった踊り場でもある部分に立って、兎草は何度か深呼吸を繰り返した。 「み、美希ちゃん。大丈夫かい?」 幾分、落ち着いた声が出せるようになったところで、兎草は傍らにしゃがみこんだ少女に視線を落とした。 自分も美希と同じ様にしゃがみこみ、壁に背を預ける。 「大丈夫か?なのは、お前のほうじゃねえのか、兎草」 二人の前に立ち、ニヤリと笑う鬼喰いに、兎草はうるさいと鼻を鳴らした。 それに、にっこりと笑った美希が、 「だいじょうぶ。おにいちゃんがまもってくれたもの」 兎草を真似るように壁に背を預けてから、大きく息を吐いた。 そして、おもむろに話し始める。 「あのとりと、わたしたちのあいだにね、いとがつながっちゃったの。だから、にげられないのよ」 「糸?」 兎草は傍らの幼い見鬼に、聞き返した。 兎草も視える者だったが、美希には、もっと別の視えるモノがあるようだった。 「うん。ほそい、ほそい、いと。それがあるから、にげられないの。すぐにきれちゃうのとか、すっごくつよいのとか、ほんとにいろいろあるんだけど・・・あのとりとのは、きれないみたい」 そう続けて、困った様に顔を顰めて美希は兎草を見上げた。 「糸か。美希ちゃんは俺が視えないものも視えてるんだね」 美希はそれに、少し大人びた笑みを浮かべ、言葉を継いだ。 「それでね。ほかのひとやものとつながることって、どういうことって、ママにきいてみたの。わたしとほかのひととか、ものとのあいだにね、いとがあるのって。そしたら、そういうのって”かんけい”っていうんですって」 「俺と、美希ちゃんの間にも?」 「そうよ。そのくろいばとーとも」 小さい指が、馬濤を指した。
他人との接触。 交流。 そこから築かれる、関係性。
それが糸という形をかりて繋がっているのが、美希には視えるようだ。 切れやすく脆い、けれど、強く繋がることも出来る、人と人の結びつき。 そして、本来は有り得ない、形無き者や妖しの者達との結びつきも。 美希のその視界では形あるモノとして、映っているらしい。 「それからね、ママはうんめいのいとかもしれないね、っていってもいたんだけど」 「運命の糸・・・」 「ぜんぶとつながってるのよって。あのとりとだってつながってるのよ、っていったら、だまっちゃった」 「そりゃあ、黙るだろうよ。チビ」 馬濤もしゃがみこんで、目線を合わせた美希に、なんとも複雑そうな顔を向けた。 あんな恐ろしいことをするモノと、自分の愛する娘が、運命の糸で繋がっているなんて。 親なら考えたくも無いだろう。 すると、 「チビじゃないってば、もう!」 今までに何度か繰り返された会話がまた、兎草の前で始まった。
運命の糸。
それは、相手との特別な結びつきを表す言葉だ。 好意を抱く相手と、その運命の糸が繋がっている事を思って、一喜一憂する人もいる。 多分、美希の母親は、娘の言葉にそのイメージを抱いていたのだろうが。 どうやら、あらゆる運命の糸があるようだ。 それこそ、無数に。 「そっか。でもさ、美希ちゃんのママが言ったような、そういう特別な運命の糸もあるのかもしれないよ」 兎草は、そう言って美希の頭を撫でた。 「あの鳥とは、絶対に違うけどね」 美希はそれに、きょとんとしてから、にっこりと笑った。
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