2006年10月24日(火) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <十> |
鬼の続きをアップです。
やはり、ずるずるのびる罠発動中。 十四も、突破しそうな勢いですよ・・・? あわわ(;´Д`)
あれもこれも書こうとするから、こうなるわけで。 ごちゃごちゃして、読みづらくなるから、いけない。 と、分かっちゃいるんですがねぇ(笑) 書いちゃうんだなあ。 困ったもんです。
もう少し、文に余白を作らねば。 想像する余地が、必要だもの。
十、渇望
淀む気を纏いながら飛ぶ、黒い鳥に視線を流し、 「ま。お前らにとっちゃ、迷惑な話だろうが。あいつも生きていくのに必死なのさ」 馬濤はぼそりと言葉を吐いた。 その言葉に、兎草の足が止まった。
戦乱の時代を生き、そして死に。
その後に鬼喰いになった馬濤は、元は人間であっても、限りなく妖しに近い存在だった。 だから、妖しの心の在り様を、容易に想像することが出来たのかもしれない。 「妖しも、人間と同じ。生きる為には、喰わなければ、死ぬしか道はない。確かに己が在るならば、死という無は、途轍もなく恐ろしいものだ」 兎草に語り聞かせるようでいて、独白のようにも聴こえるその言葉。 それに、鬼喰いの主と幼い見鬼は、静かに耳を傾けた。 「だから、生きる為に、喰う」 「─────」 黒の衣を纏い、傍らに浮かぶ馬濤を兎草は、ただ見つめた。 かける言葉が、見つからない。 低音の柔らかいはずの声が、硬く冷えた音を含んで聴こえるのが。 無性に、哀しかった。 「生有る者は、己が永らえる為の、餌。妖しが人間を喰うって行為は、お前達が生きる為に米を食うのと、大差ない行為なのさ」
暗がりから見える光は眩しく、目の毒だが、それ故に。 恐ろしく、甘い匂いがするのだ。 まるで誘うように。 それは、抗いがたい欲求を心の奥底から、呼び起こす。
己の中の虚空を、満たしたい。 闇の住人ではなかった頃に、戻れるかもしれない。
そんな欲求を。 そんな渇望を。
だから。 妖しは、清浄な魂を持った者を喰らいたいのだ。 幾つも、幾つも。 数多の命を喰らい尽くしたい。 己でさえも抑えきれない、癒えぬ渇きを潤す為に。
それは、妖しの者達にとっては、純粋な衝動なのだ。 人間にしてみれば、勝手な衝動以外の何者でもないだろうが。
馬濤は桜の内で眠りにつくまで、そんな都合の良い事を思うモノ達を腐るほど、見てきた。 そして、いつまでも、暗い場所に居る哀れなモノ達の末路を知ってもいた。 幾ら、喰らおうとも。 元に戻れはしない。 一層、深みに嵌るだけだ。
馬濤は、すぐ傍に潜む、無常の闇を思った。
自分がこの闇に嵌らなかったのは、ほんの少しの弱さが、心に在ったからだと。 馬濤は良く承知していた。 光を捨てる事は出来なくて、それに縋る事を選んだ、その弱さを。 知っていた。 そして。 それが間違いではなかったと、馬濤は傍らの子供に触れて、思ったのだった。
黒い布に覆われた、その奥の目が、ひたと自分を見詰めていることに気づいた兎草は、 「餌と言われて、大人しく喰われるヤツなんて居ないからな」 慌てた様に、むっとした顔を作った。 心の中の戸惑いや、言葉をかける事の出来ない無知な自分を、馬濤に知られたくなかったからだ。 そんな兎草に、馬濤はニヤリと笑う。 「そりゃそうだ。イツの世も、喰うか喰われるか、だ。喰われるのが嫌なら、知恵を絞って戦うのみ。人じゃないモノと戦うために、人間は知恵を絞り、生まれたのがお前達のような異能だからな」
キィイィイイ。
空から、妖しの咆哮が降ってきた。 乾いたその叫びは、身の内に水を湛える人の心に、波紋を生じさせる。 止まっていた足が、動けと命じた。 兎草が目を向けると、馬濤は妖しを仰ぎ見ながら、行けという様に顎で先を指し示した。 再び、兎草は階段を駆け上がり始めた。
ふわりと宙を舞いながら、馬濤はまた話し出す。 「人が在り、妖しが生まれた。人は妖しを畏れ、妖しは人を喰った。妖しが跋扈し、人は妖しと戦う術を得る為に、世の理を識った。お前達の祖はあらゆる知識を得、それを心で使い、血に染み込むまで昇華させた。そして、新たに生まれる魂、お前達に継がれる力が生まれたんだ。それぞれの異能の力は、そうやってお前達に宿っている」 妖しと異能の者達の、対のような関係を馬濤はそう語った。 「互いが、互いに、生きる為に戦う事は悪い事じゃない。世の常、理だ。だから、お前達は気兼ねなく、あいつを倒していいんだ」 あいつらも、気兼ねなく、お前達を喰おうとしてるんだから。 馬濤はそう言って、笑った。 「そんで、戦うのは俺の役目だ。だから、俺が戦う。お前の命を狙うなら、俺が暴れてもいいってことだからな。なぁ、兎草?」 先程まで纏わりついていた影を払った馬濤の言葉に、兎草は困った様な笑みを浮かべた。
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