6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2006年10月24日(火)   鬼の守人 ─嚆矢─  <十>

鬼の続きをアップです。

やはり、ずるずるのびる罠発動中。
十四も、突破しそうな勢いですよ・・・?
あわわ(;´Д`)

あれもこれも書こうとするから、こうなるわけで。
ごちゃごちゃして、読みづらくなるから、いけない。
と、分かっちゃいるんですがねぇ(笑)
書いちゃうんだなあ。
困ったもんです。

もう少し、文に余白を作らねば。
想像する余地が、必要だもの。



















































十、渇望



淀む気を纏いながら飛ぶ、黒い鳥に視線を流し、
「ま。お前らにとっちゃ、迷惑な話だろうが。あいつも生きていくのに必死なのさ」
馬濤はぼそりと言葉を吐いた。
その言葉に、兎草の足が止まった。

戦乱の時代を生き、そして死に。

その後に鬼喰いになった馬濤は、元は人間であっても、限りなく妖しに近い存在だった。
だから、妖しの心の在り様を、容易に想像することが出来たのかもしれない。
「妖しも、人間と同じ。生きる為には、喰わなければ、死ぬしか道はない。確かに己が在るならば、死という無は、途轍もなく恐ろしいものだ」
兎草に語り聞かせるようでいて、独白のようにも聴こえるその言葉。
それに、鬼喰いの主と幼い見鬼は、静かに耳を傾けた。
「だから、生きる為に、喰う」
「─────」
黒の衣を纏い、傍らに浮かぶ馬濤を兎草は、ただ見つめた。
かける言葉が、見つからない。
低音の柔らかいはずの声が、硬く冷えた音を含んで聴こえるのが。
無性に、哀しかった。
「生有る者は、己が永らえる為の、餌。妖しが人間を喰うって行為は、お前達が生きる為に米を食うのと、大差ない行為なのさ」

暗がりから見える光は眩しく、目の毒だが、それ故に。
恐ろしく、甘い匂いがするのだ。
まるで誘うように。
それは、抗いがたい欲求を心の奥底から、呼び起こす。

己の中の虚空を、満たしたい。
闇の住人ではなかった頃に、戻れるかもしれない。

そんな欲求を。
そんな渇望を。

だから。
妖しは、清浄な魂を持った者を喰らいたいのだ。
幾つも、幾つも。
数多の命を喰らい尽くしたい。
己でさえも抑えきれない、癒えぬ渇きを潤す為に。

それは、妖しの者達にとっては、純粋な衝動なのだ。
人間にしてみれば、勝手な衝動以外の何者でもないだろうが。

馬濤は桜の内で眠りにつくまで、そんな都合の良い事を思うモノ達を腐るほど、見てきた。
そして、いつまでも、暗い場所に居る哀れなモノ達の末路を知ってもいた。
幾ら、喰らおうとも。
元に戻れはしない。
一層、深みに嵌るだけだ。

馬濤は、すぐ傍に潜む、無常の闇を思った。

自分がこの闇に嵌らなかったのは、ほんの少しの弱さが、心に在ったからだと。
馬濤は良く承知していた。
光を捨てる事は出来なくて、それに縋る事を選んだ、その弱さを。
知っていた。
そして。
それが間違いではなかったと、馬濤は傍らの子供に触れて、思ったのだった。

黒い布に覆われた、その奥の目が、ひたと自分を見詰めていることに気づいた兎草は、
「餌と言われて、大人しく喰われるヤツなんて居ないからな」
慌てた様に、むっとした顔を作った。
心の中の戸惑いや、言葉をかける事の出来ない無知な自分を、馬濤に知られたくなかったからだ。
そんな兎草に、馬濤はニヤリと笑う。
「そりゃそうだ。イツの世も、喰うか喰われるか、だ。喰われるのが嫌なら、知恵を絞って戦うのみ。人じゃないモノと戦うために、人間は知恵を絞り、生まれたのがお前達のような異能だからな」

キィイィイイ。

空から、妖しの咆哮が降ってきた。
乾いたその叫びは、身の内に水を湛える人の心に、波紋を生じさせる。
止まっていた足が、動けと命じた。
兎草が目を向けると、馬濤は妖しを仰ぎ見ながら、行けという様に顎で先を指し示した。
再び、兎草は階段を駆け上がり始めた。

ふわりと宙を舞いながら、馬濤はまた話し出す。
「人が在り、妖しが生まれた。人は妖しを畏れ、妖しは人を喰った。妖しが跋扈し、人は妖しと戦う術を得る為に、世の理を識った。お前達の祖はあらゆる知識を得、それを心で使い、血に染み込むまで昇華させた。そして、新たに生まれる魂、お前達に継がれる力が生まれたんだ。それぞれの異能の力は、そうやってお前達に宿っている」
妖しと異能の者達の、対のような関係を馬濤はそう語った。
「互いが、互いに、生きる為に戦う事は悪い事じゃない。世の常、理だ。だから、お前達は気兼ねなく、あいつを倒していいんだ」
あいつらも、気兼ねなく、お前達を喰おうとしてるんだから。
馬濤はそう言って、笑った。
「そんで、戦うのは俺の役目だ。だから、俺が戦う。お前の命を狙うなら、俺が暴れてもいいってことだからな。なぁ、兎草?」
先程まで纏わりついていた影を払った馬濤の言葉に、兎草は困った様な笑みを浮かべた。


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武藤なむ