2006年10月14日(土) |
鬼の守人 ─嚆矢─ <九> |
鬼の続編をアップ。 いまだに、逃避行中。
予定では、十で終わるはずだったんですが。 (↑鬼が十だったからお揃いにしたかった)
どうやら無理の模様。
十三か、十四くらいになりそうですよ。 あわわ(;´Д`) ずるずるとのびていく長文の罠発動。
九、衝動
美希の父が所有するビルに辿り着くと、兎草は裏に回り、外付けの非常階段を駆け上がった。 馬濤は階段脇の宙を、禍々しく舞う黒い鳥を警戒しつつ、流れる様に移動している。 「あいつ、諦める気はさらさらなさそうだなぁ」 「諦める気があるような妖しなら、最初から、人間のこと狙わないよ」 ふわりふわりとついて来る馬濤に、兎草は弾む声で応えた。 すると、道理だな、と笑い声が返ってくる。 「それにしても。美希ちゃんがこうやって外に居るってことは、姉さんが着く前に、事態が悪化したってことだよな?」 弾む鼓動の中、冷静に状況を考える。 退魔の術を完璧に扱う素子が、敵と対峙して獲り逃がすなど有り得ないのだから、そう考えるのが当然だ。 兎草は、階段を踏み外さぬよう気をつけながら、腕の中の美希に問うた。 聞きたい事があったのだ。 これを聞けば、どういう経緯が流れたか解るに違いない、そういう問いだ。 大人しく兎草にしがみついていた美希が、耳を澄ます気配がした。 「美希ちゃん、あのさ、さっき言ってたおじいちゃまって──生きてる人だった?」 普通の人が聞けば、おかしな問いに聞こえるかもしれないが、兎草は至極まじめに訊いたし、美希にはそれで通じた。 「・・・それがね、よくわからないの。いきてるようなきもするし、ちがうようなきもして」 自分を逃がしてくれた”おじいちゃま”のことを思い出しながら、美希は首を傾げた。 自分の視たモノ、その感覚を言葉で伝えようとするが、上手く言えないらしい。 美希にとっては、それだけ、不思議なおじいちゃまだったのだろう。 その様子にニヤリと笑いながら、馬濤が兎草を見遣る。 「そりゃあ、間違いなく、家長の護法だ。なぁ、兎草?」 「うん。祖父さまの護法の助けがあって、この子は逃げてきたんだ」 目の端を掠めるように飛ぶ、黒い鳥。 キィキィと耳障りな鳴き声が、兎草の鼓膜を震わせた。 空を舞う、黒い妖しは。
ただただ、ひたすらに。
喰いたい、喰いたいと叫んでいる。 「いやなこえね。とっても」 美希は兎草の首筋にぎゅっとしがみついた。 なだめる様に、その小さな背を叩いてやる。 腕の中の小さな異能者は、鳥の叫びを嫌なものだと感じる事は出来るが、その内容までは解らないようだ。(美希の能力はどうやら、視る事のみが特化しているらしい) でも、今はその方が良いと、兎草は思った。 壊れた様に喰いたいと繰り返す妖しの声を聞かせたくはなかったからだ。 が。 そんな気遣いと無縁の馬濤が、 「あの鳥、お前らの事、早く喰いたいってよ」 暢気に、黒い鳥の叫びを通訳し、最悪の事を口にした。 美希の体がびくりと竦むのを感じ、兎草は思いっきり、非難の視線を馬濤に浴びせた。 「・・・・・」 兎草の口元は、への字に曲がっている。 しかし、馬濤はそんな視線を物ともせず、 「相当、腹が減ってるみてえだなぁ。あの鳥」 と、更に言葉を継ぐ。 「いっぺんに、二匹喰えるって、大喜びだもんよ?」 妖しの狙いは美希だったはずなのだが、いつの間にか、兎草もそこに含まれてしまったらしい。 まあ。 己が喰おうとしている子供に、どこからか現れた異能の者がくっついて来たら、そりゃあ、棚から牡丹餅、据え膳食わぬはなんとやらだ。 妖しとしては、喰わない手はないだろう。 デリカシーのない鬼喰いは、妖しを仰ぎ見、にやにや笑っている。 美希がまた怯えたように身じろいだのを感じて、兎草は今度は、盛大に顔を顰めた。 「余計な事、通訳するな。馬濤」 これ以上、変な事を言わせて、美希を怖がらせてはいけない。 兎草は強い口調で言った。 「あ?俺が居るんだから、アレがなんて叫ぼうが、怯える必要なんてねえだろ」 そんな兎草に、馬濤は不服そうに鼻を鳴らす。 俺が信用できないのか、とでも言いたげだ。 兎草は、尊大に言い切った傍らの鬼喰いに、小さく溜息を吐いた。
|