6匹目の兎<日進月歩でゴー!!>*R-15*

2006年02月11日(土)   ソバニイテ

今回は、義眼と生身の話じゃなく。
若かりし頃の髭の人と女隊長さんの過去話でございます。

なので、少しだけ。
少佐がか弱い感じに仕上がりました。

それにしても。
またしても、絵師さんの絵の威力にヤラレました。
想像(妄想ともいう)の翼がばたばたいいっぱなしです。
おかげで、萌えに任せて、書いてしまいましたもの。←通常通り

イシ素をね。

Bさん、いつも萌えをありがとうございます。
萌え絵と萌え設定に、日々、転がされとりますよ(´∀`*)ノシ
そして、いつもウザイくらい、文を押し付けてすみません・・・orz

頂いた萌えを少しでもおかえし出来てれば、いいんですが(汗)

最後に。素敵絵のお持ち帰り+掲載許可をありがとうございました!
ドキドキしながら、貼らせて頂きました(緊張)

B会長の恩に報いるために、イシ素普及協会平会員は、こそこそ頑張ります(笑)


























雨は嫌い。

何かを無くす時。
いつも雨だったから。

身体を無くした時。
仲間を亡くした時。

心の一部を無くした時。


いつも、雨だった。


だから、雨は嫌い。
揺らぐゴーストを突き刺すように降る、雨が嫌い。






共有室を覆う強化硝子に、雨の雫が落ちてきたのは、何時間前だったろうか。
ただ、待機するのにも飽きて、眼下に広がる夜景を見始めて直ぐだったような気がする。
ログを調べれば正確な時刻を知ることも出来たが、知る必要もない事だったので、止めた。

「どうした、少佐。んなとこで、ぼーっと」

耳に馴染む、男の声。
姿を確認しなくても、誰だか判る、掠れた低音。
ダイブルームの主も、情報の海を泳ぐのに厭きたのだろう。
暫しの休息を得に、ここに来たのに違いなかった。

「───イシカワ」

血の繋がりよりも、濃い絆を感じるほど、長く。
死線を共に歩いてきた、男。
戦友であり、仲間でもあり───。
この男との関係を言葉で表すのは、酷く、難しい。

「どうした?」

闇色を溶かした硝子に、近付いてくる男の姿が映る。

「どうもしない」
「そうか?」

傍らで立ち止まり、訝しげに見下ろしてくる男に、少し逡巡。
慎重に、言葉を選んでから、口にした。

「・・・ただ、雨を見ていただけ」

そう、ただ、雨を見ていただけ。
そこに、深い意味も、語るべき理由も無かった。
無いはず、だった。

「雨は、嫌いか?」

男のその問いに、ゴーストが揺れる。
奥底に沈む囁きが、浮かび上がり、形を成す。

「─────────────嫌い」

雨は嫌い。
底にある過去と、記憶の中の想いが、電脳に拡がっていく。

「俺は」

ジャケットを探る音に次いで、パッケージから煙草を抜き出す音がした。
硝子越しに視線を向けると、煙草を咥えた男と目が合う。

「嫌いじゃないがな」

慣れた手つきで火を点けた男は、白い煙を吐き出しながら、そう言葉を続けた。
その口許には、笑みが浮かぶ。

「何故?」

そんな笑みを見たのは、久しぶりで、思わず訊き返してしまった。
男は鏡越しにこちらを見ている。

「・・・何時だったか、まだ軍属だった頃。俺が死にかけた時があったろう?お前に、助けられた、あん時さ」

それから直ぐに視線を眼下の景色に移すと昔を思い出すように遠くを見つめるような目をした。
男の言っている過去が、いつのことだったか。
記憶が引き出される。

「雨が、降っていた」

覚えている。
肌を刺す雨も、纏わりつく空気も、揺らぐゴーストも。
叫びだしたくなるほどの焦燥も。
何もかも。

「───────」

「だから、俺は雨が嫌いじゃないのさ」

男は煙草を口許から離し、煙を吐き出すと、そう言って。
硝子越しではなく、こちらを向いて、笑った。







鬱蒼と茂る密林。
奇襲は失敗に終り、指揮官が退くタイミングを逃した代償は、多くの兵士の命で贖われた。
戦場で否応無しに求められるそれは、恐ろしく重く、そしてまた、恐ろしく軽い。


例えて言えば、散る花のように。


無情にも降り出した、雨。
深く茂る枝葉を貫き、足場を崩す泥濘を生む。
断続的に響く、銃声。喧騒。
鈍く響く、水音。

刹那。

自分の傍らで倒れたのは、長く背中を預けていた髭面の男だった。
血の気が引いた。
ゴーストが震え、それに同調するように銃を握る手が震える。
しかし、紅い義眼が捉えた標的を撃ち漏らすことだけはしなかった。
したくなかった。

「私を庇う奴があるか!義体は撃たれても死なない・・・ッ」

倒れ逝く標的から、意識を逸らし、足元で蹲る男の身体に手をかける。
違う。
怒鳴るべきは、自分。
気を散らした、自分自身にだ。
どんな状況でも、冷静に己を制御しなければならないというのに。
自分に向けられた銃口、殺気を感じ損なうなんて。
男に庇われ。
男に負わなくてもいい傷を与えた。
悔恨に銃を握る指先が冷える。
そんな感覚をもつことのない義体だというのに、恐ろしいほど、ぞっとする冷たさを感じた。
それをかき消すように。

「そんなことは解ってる。が、動いちまった、もんは仕様がねぇだろうよ?」

苦痛に呻く声で無く、飄々とした応えが鼓膜を撫でた。
焦る心の中、この男らしい口調、言葉に安堵が生まれる。
が、状況は笑い出したいほど、最悪に近い。
素早い行動と的確な判断が、生死を分かつことに違いは無かった。
男の身体を木々が折り重なる場所に引き摺り込み、撃たれた箇所を確認する。
銃創から流れ出た血は、衣服を染め、溢れ出ようとしていた。
どちらも致命傷ではなかったが、生身の部分を多く持つこの男は、ほんの少しのきっかけで死んでしまう。
血が多く流れ出れば、それが死へと直結する。
そう、考えた時。
作戦のお粗末さも、指揮官の無能さも、この軽装備も。
己の迂闊さも。
吐き気がする程に、厭わしく感じた。

「肩と、脇腹か・・・」
「おい、こんな事してると、囲まれるぞ」
「今更だ」

肩から掛けていた銃弾のホルダーを素早く外し、迷彩服の上着を脱ぐ。
雨で湿ったそれを裂き、止血に使う。
浅い息を繰り返す男の、血と泥に塗れた服の上から、肩を締め上げるようにきつく巻き付けた。
脇腹にも、血止めの為に巻き付けるが、直ぐに血が滲んでくる。
それに舌打ちをし、残りの布を押し当てた。

「今以上に、退路を断た、れると、お前まで」
「ウルサイ!黙っていろっ」

見捨てることなど、出来ない。
出来るわけがない。
この男を置いて逃げ、生き残ったとて、それが何になるのか。
ホルダーをタンクトップの上から掛け直し、ぐったりとしはじめた男の身体を背負い上げた。
非力な女ではなく、義体化した身体であることをこれほど感謝したことは無い。
けれど、その義体は。
背負った男の体温が徐々に失われていくのを克明に感じ取り、全身に伝え、そして、ゴーストを揺らす。

忌々しい、雨。
髪を伝い、頬を濡らし、肩を滑り落ちる。
そして、服を湿らせ、背に負う男の体温を容赦なく奪っていく。

「あれだな、少佐」
「喋るな、死にたいのか?!」
「・・・・な女の腕の中で死ねたら、最高だが」

男は、黙らない。

「お前の背中で死ぬのも、悪かない、な」
「馬鹿!誰が死なせるか・・・ッ」

その叫びは、自分でも判るほどに、掠れ震えていた。







嫌になるくらい克明に。
まるで昨日のことのように。
ゴーストと電脳に刻み込まれた記憶は甦る。

雨と、泥。
纏わりつく、甘く、生臭い臭い。
流れ出す、赤い血。
吐く息に、咽喉が焼かれるような、感覚。

冷えていく身体は、どちらのものだったのか。
揺らぐゴーストが叫んだ言葉が、なんだったのか。



それらを振り払い、感情を押し殺した声で、口を開く。

「あなたは、死にかけてたのに、口が達者だったわよね」
「ふふん。あの状況であれだけ喋れれば、上等だろう?」

飄々とした語り口は、あの頃から変わっていない。
あの後、救援の信号をたよりに救出にきた別働隊と合流した。野営地で男が治療を受けているのを傍らで見守った。
総てが終り、ベッドの上で煙草を吸うその姿を見て、心底。
泣きたいほどの安堵を感じたのを鮮明に思い出す。
覚えている。
何もかも。
男が、総てを知っているかのように、笑い。
「そんなカオ、お前には似合わん」
そう言ったことも。
笑んだ髭面が、無性に、愛おしいものに見えたことも。




この男は飄々と語り、何気ない顔をして、安堵を与えるのだ。
今も、傍で、変わらずに。





強化硝子を叩く雨は、激しさを増してきた。
大粒の雨が、硝子に弾け、流れ落ちていく。
このままいけば、今日の任務は、雨中の作戦となるだろう。
あの時と同じ雨。
けれど、今降る雨は、似て非なるものだ。
叫びだしたい、もどかしさも。
焦りに似た、衝動も。
身の内に巣食うことはない。
あの頃には、持ち得なかったものを、手にしているから。

「イシカワ」
「何だ」

傍らで煙草の煙を吐き出す男の腕を、拳で叩く。

「コーヒー、淹れてあげる」
「こりゃまた、珍しい」

咥え煙草のまま、大袈裟に驚いてみせる男に、少し眉を顰めた。
にやにやし始めた口許から、短くなった煙草を掠め取る。

「少し、付き合って」
「喜んで」

問答無用の色を滲ませた言葉には、笑い含みの答えが、返ってきた。





そういえば。
あの時から、失うものが、減った気がする。
無くしかけたものを、この手で繋ぎとめられるように。
なった気が。

けれど。

それでも。
私は、雨が、嫌い。
ゴーストを刺す様に降る、雨が嫌い。




だから。
傍にいて。






少しだけでいいから。








END



BUBさんのこの絵がなければ。
この話は生まれてませんでした。
素敵な絵と出逢えて、文を書くことが出来て、幸せです。
BUBさん、本当にありがとうございました!


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武藤なむ