去年の5月に書いた「猫とリボン」の続編。
今度はバトーさんに犬になってもらいましたよ。 ←あーやっちゃった 犬の格好のまんまで終わらせたのが、私のなけなしの良心(え)
ほんとは、「猫」で終りの書き逃げのハズだったんですが。 当時、気に入った、と言ってくれる奇特な方々がいて(笑) なんだか嬉しくなって。 続編、書こうとずっと練り練りしてました☆
その中でも、続きーと囁いてくれたM月さんに、こっそり捧げます。 よかったら、もらってやってください。 それから、サイト1周年、おめでとうございました!(遅ッ・・・orz スミマセン) これからも、M月さんの素敵萌え絵&文を見るのにストーキングさせていただきますので、宜しくお願い致します(笑)←さらっと変態
『じゃあ、貴方の初仕事よ。迷子にならないようにお供を付けてあげる。仕事が終わったら、寄り道しないで帰ってらっしゃい』 女はそう言うと嫣然と微笑んだ。
その日。 トグサは古い雑居ビルの隙間を縫うようにして続く、路地裏を歩いていた。 一歩前を道案内をするように、大型の犬が歩いている。 これから向かうべき場所は、電脳で拾えるような地図には載っていない、公的機関の情報網を駆使しても辿り着けない特殊な場所らしく、道を知るこの犬について行かねばならなかった。 それを見下ろし、 「なんで俺がこんなこと・・・」 トグサは溜息と共に愚痴をこぼす。 しかし、どれ程、愚痴をこぼそうとも。 行かねばならないのだ。 行かなければ、何が起こるか、知れたものではない。 身を守るためには、従うしか、ないのだ。 犬にはめられた黒い首輪を見るともなしに見ながら、トグサがもう一度、溜息をつくと犬は振り返り、同情するようにふっさりとした尾を振って見せた。 それに、笑って見せ、再び歩き出す。 途切れることのない雑居ビルの谷間は、昼間だというのに薄暗く、気が滅入ってくる。 長居したくない、という気持ちが自然、早足という動作になってトグサを急がせた。 そんなトグサの気持ちを察してか。 犬は、少し駆ける様にして先を急いでくれた。
そして、辿り着いた先は、今にも崩れ落ちそうなビルだった。 仄暗い地下へ伸びる階段がある。 とんとんと軽快に降りていく犬に続いて、トグサも階段を降りて行く。 そこに古めかしい木製の扉が現れた。 店名を示すような物は、何も無い。 ただ、彫り込まれた見事な幾何学模様が、目を引く。 トグサはそれを慎重に押し開け、更に続く階段を足音を殺して降りた。 その前を犬が導くように降りていく。 踊り場のような少し広い場所、そこから木製の手摺りが階段に添うようにあり、その先に煌々とした明かりが見えた。 手摺りに手をかけ身を屈めて覗き込むと、そこに背を丸め、開店準備をしている男が見えた。 バーテンダーの格好をした、スキンヘッドの大男。 この店の主。 名前は既に知っている。 トグサは残り数段になった階段を降り、声をかけた。 「あんたが、ベロニモ?」 その呼びかけに、大男はひぇえ、と小さな悲鳴をあげて振り返った。大柄な身体に似合わぬ、その臆病を絵に描いたような反応にトグサは笑ってしまった。 どうやら、準備に気をとられていて、全く気付いていなかったようだ。 男は、おどおどした様子を隠しもせず、 「・・・そ、そうだけど・・・・・・あんたは誰だい??見ない顔だ」 そう、逆に問うてきた。 「俺は、トグサ。見ない顔のはずさ、俺はこの店に初めて来たんだから」 テーブルに乗せていた椅子を下ろそうとした格好のまま固まっていたベロニモが、それに目を見開き首を傾げる。 「ど、どうやって、ここに来たんだ?あんた。ここは・・・」 「知ってる人間しか、辿り着けない場所だってんだろ?」 トグサは大男の言葉を遮ってそう言った。 「ここを知ってる人間に連れて来てもらえば、可能な話さ」 そこで初めて、ワゥ、と犬が鳴いた。 こっちを見やがれ。 そんな響きを持った鳴き声だ。 ベロニモはその鳴き声にも、ひぇ、と小さな悲鳴を上げ、すぐにその主が誰か気付いた。 身体を折り曲げ、そこに座る犬に憐れみの視線を送る。 「バ、バトーの旦那じゃないか・・・!その格好、また、姐さんに逆らったのかい?!」 ふんっ、という鼻息がそれに答える。
そう、トグサを導いてきた犬、その正体はバトーその人であった。
バトーの白銀の髪、そのままの色をした短い体毛、がっしりとした四肢をもつ大型犬。 義眼はつぶらな目に変わっていて、キレイな灰色の目をしていた。もしかしたら、義眼になる前の目の色かもしれない。 トグサは跪いて、バトーの背を撫でた。 「バトーのお仕置きを終わらせる為にも、あんたには仕事を引き受けてもらいたい」 そう言って、スーツの内ポケットにしまいこんでいたチップを取り出し、ベロニモに差し出した。 あの女、赤眼の魔女に手渡された、何らかの情報が詰まったチップ。 これを渡せば、コトは済むのだ。 バトーも人間の姿に戻れる。 トグサは真っ直ぐに、ベロニモを見つめた。 「───て、ことは。あんた、姐さん関係のヒトってこと?」 事情が飲み込めたベロニモは、姐さん、そう言って口許を引き攣らせた。 その表情で、あの女がどれだけ周りに脅威であるかが知れた。 今の所、自分も、この男とたいして変わりはないだろう。 まだ、あの女が何者で、何を自分に求めているのか。 分からないから。 「ああ、そうだ。と言っても、つい最近、なったばっかりの新人だけどね」 ワゥ、と同意の鳴き声がバトーから上がる。 「兎に角。これを芽吹かせてくれ、それが赤眼の魔女からの伝言だ」 「・・・わかったよ。いつまで?」 「明日までに」 「相変わらず、キビシイことを言うなぁ、姐さんは」 チップを受け取りながら、ベロニモは肩を落とした。 「じゃあ、頼んだよ。ベロニモ」 それに、トグサは満面の笑みで答え、バトーからも一鳴きあった。 バトーの背をもう一度撫ぜてから、トグサはここを出る為に立ち上がる。 階段に向かおうとすると、声が掛かる。 「一杯、飲んでいくかい?」 「薄めてない酒があるなら」 「・・・・・・手厳しいね。姐さんたら、そんな情報まで与えてるのか」 困ったような表情になった情報屋の大男に、トグサは笑って手を振り、階段を上り店を後にした。
ワゥワゥ、足元から、鳴き声がする。 「これで、任務完了だな」 灰色の目が嬉しそうに、見上げてきた。 トグサはしゃがみこんで、バトーと目線を合わせ、ニヤリと笑う。 「これで、あんたに借りが返せる」 ワゥ。 バトーはつぶらな目を少し眇めると、トグサの口許をべろりと舐めた。 それに、トグサはきょとんとした後、それがどういうことか思い至って顔を赤らめた。 本当の犬であれば、じゃれあいですむ。 でも、バトーは犬ではない。人間なのだ。 トグサは慌てて立ち上がると、すたすたと来た道を戻り始めた。 バトーを置き去りにして。 ワゥワゥ。 「さぁ、早く帰ろう」 犬の軽快な足音が、トグサの後をついて来る。 それを振り払うように、トグサは歩き続けた。
END
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