| 2005年09月27日(火) |
凍えるその手を離さない |
絵茶で捧げちゃっ隊6兎出張版→続。
Bさんの素晴らしく萌えな「廃墟でバトグサ絵」をそれぞれの視点から、書いた今回の話。 書きあがった結果。
バトさん視点は、やけに暗めに。 トグ視点は、やけに甘めに仕上がりました(笑)
SACベースのつもりで書いてたんですが、何やら、犬的になってしまったような気がしないでもな・・・orz
そして、細切れな感じもしたりして。
すべては、文力不足のせい・・・・orz(涙)
精進あるのみですね。 そうですね。(自問自答)
でも、この話、書けてよかった。 なんだかんだ言って、気に入っております(笑)
慌ただしく駆ける足音が聴こえる。 トグサはその後を追い、崩れ落ちた壁の破片を飛び越え、傾いたままの鋼鉄の扉の前に立った。 この奥に、気配がある。 焦りをおび、息を潜める、人の気配だ。 バトーの光の位置を確かめ、その位置が少し遠いことに、躊躇うが。 一つ、大きく息を吐き、トグサは手に馴染んだマテバを握り締めた。 そして、緊迫感の支配する空間に、身を躍らせる。 引き金に指を掛け、銃口を走らせ、標的を探す。 しかし、電脳に焼き付けた全身義体のサイボーグの姿は見当たらなかった。 が。 必ず、居るのだ、この瓦礫に埋まる一室の中に。 気を緩めずに、辺りを探る。 と、視界の隅を何かが掠めるように動く。 それは、折れた鉄柱の影へと一瞬で消えた。 トグサは大きく息を吐き。狙いを定め一歩、踏み出した。
「動くな」
声を発した、その瞬間。 影から現れた者に、トグサはしてはならない事をしてしまった。 それは、躊躇だ。 引き金に掛けた指が弛み、銃口が浮く。
子供。
こんな所に居る訳が無い。 そう思ったというのに、身体は反応してしまった。 任務の時は心の奥底に隠してある感情に、だ。
”銃を握り、任務に就いたら、躊躇うな” ”躊躇えば、お前が負うリスクは重くなるぞ” ”例え、それが、子供の姿をしていてもだ” ”容赦なく、引き金を引け”
義眼の男にも、女隊長にも言われたことだったのに。 痛いほど、解っていたのに。 トグサは唇を噛みしめ、銃を構えなおそうとしたが、それは出来なかった。 躊躇いが隙を生み、相手に優位な立場を与えたからだ。
後ろから伸びた、大きな手。 黒い皮のジャンパー。 その腕が自分の首を捉え、QRSプラグに、冷たいものが差し込まれるのを感じた。
それが最後。 トグサは、一瞬で意識を閉ざされ、その場に倒れた。 後悔することさえ、許されぬままに。
───────────────────
どの位、倒れていたのか。 トグサの白く閉ざされた世界に、色が戻り、音や匂い、感触が戻ってきた。 後悔の念とともに。 ゆるゆると開いた目で数回、瞬き、視線を上げる。 跪き、自分を見下ろしていたバトーの義眼と目が合った。 「生きてるか、相棒」 低音が、耳を打つ。 「──────お蔭様で」 情けなさに口許を歪め、苦笑と共にそう言って、トグサは埃にまみれた身体を起こした。 「すまない、逃がしちまった」 せっかく、追い詰めたというのに。 トグサは、頬に纏わりつく髪を払いのけ、大きく息を吐いた。 始末書と、また一から始めなければならない鬼ごっこに眩暈がする。 「始末書は、俺が書くよ、旦那」 「───────」 それから、トグサは自分の姿を眺め、溜息を吐く。 上着もズボンも、床に積もっていた埃で白く変色してしまっている。 取り合えず、ズボンの埃を落とそうと数度叩いてみたが、すぐに諦めた。 「うぁ、このスーツは完全にクリーニング行きだなぁ」 大人しく、埃はそのままに、上着だけ脱ぐことに決め、袖を抜いた。 片手にそれを持ち、バトーを返り見ると、黙ったまま立ち尽くしている姿が目に入る。 淡い光をを背にして立つ、そのバトーの表情は見えない。 暗い影が、それを隠して。 「旦那?」 その影に、トグサの胸は不安を生んだ。 先程から、押し黙り、なんの応えも返してこない。 失敗した自分をからかう素振りすら見せないなんて、何か、おかしい。 トグサはバトーの表情を確かめようと近付き、伺うように見上げた。 が、それを確かめる間もなく、いきなりその胸に抱き込まれてしまう。 突然の抱擁に、トグサは手にしていた上着を落とした。 乾いた音が、足元から上がる。 「ちょ・・・旦那?何だよ」 「────────」 答えは無く、ただ、バトーの腕にこもる力が強くなる。 「おい、旦那?」 力強い腕が、背から腰に回され、トグサは咄嗟にその手を抑えようとした。 息苦しさと。 「何なんだよ?」 それから、困惑。 性急に身体を繋ごうとする時の動きが、被ったせいだ。 「はなせ、って」 けれど、耳元で呟くように言われたバトーの言葉にその手が止まった。
「俺を拒むな」
懇願するような色を含んだその声に、胸を衝かれ。 トグサは抵抗する言葉を失った。
なんて、卑怯な声だろう。
これで、どうしたら、拒むことが出来るのか。 トグサは深く息を吐いた。 「・・・拒む気なんか、ないよ」 頬に触れるTシャツ越しのバトーの皮膚は冷たく、それがこの男の感情の全てを表している様で。 縋るように伸ばされた手を今、離してはいけないと、そう思った。 トグサはバトーの首に腕を回すと、引き寄せる。 「あんたの顔が見たいだけだ」 名を呼ぶ。 「バトー」 応えは無い。 それでも構わず、話しかけた。 「どうしたんだよ、何があった?」 トグサが、静かに問いかけると、バトーはやっと口を開いた。
「─────ここは、嫌な場所だ」
バトーの低音が、更に低く、トグサの鼓膜を震わせた。
「思い出したくもない感情を思い出させやがる」
戦場に生き、戦い、身体を失っていく。
悲鳴を上げる感情を。 麻痺していく感覚を。 無くしたくない誇りを。
かけがえの無い戦友を。
その他にも、自分には知り得ない何かを失い続けてきたであろう男。
バトーが居た、自分の知らない世界は、奪うことよりも失うことの方が多かったのに違いない。
奪うより、得るよりも、深く。 失うことを畏れるこの男には。 何度でも、言わなければいけないのだ。
まだ、その手には残されている物があると。 まだ、失ってない物もあるのだと。
そして、触れて。
自分は、ここに居るのだと判らせなければいけない。 だから。 トグサは何度だってバトーに触れ、伝える言葉を探し、それを形にする。 それを惜しみはしない。
生きている。 傍に居る。
バトーを生身の腕で抱き締め、それを伝えた。
「俺は生きてるよ」
触れる温度と言葉で。 凍えるような喪失の恐怖を抱え続けるバトーを温めてやれるように。
「あんたの傍にいる。心配しなくていい」
それでやっと、バトーの身体から、力が抜けていくのを感じた。
───────────────────
柔らかく解けたバトーの腕から、トグサは抜け出した。 「俺は、悪運だけは強いんだ」 いつもの軽口を装って、心からの言葉を伝える。 「─────────」 「滅多なことじゃ、死なない。だから、あんたの背中はずっと俺が守ってやるよ」 からかう様に笑って見せると、バトーの強張っていた表情も柔らかくなった。 「ぶっ倒れてた奴が、偉そぅに」 口調にもいつもの響きが戻ってきた。 「そりゃ、まぁ・・・ちょっと、迂闊なとこもあるかもしんないけど」 トグサはバトーの義眼に視線を合わせ、 「あんたの相棒は、俺じゃなきゃ、務まんないだろ?」 首を傾げた。 それに、バトーは何かを言おうと口を開いたが、けれど言葉にはせず。 口の端を引き上げ、トグサの頭を乱暴に撫でた。
「さーて、旦那。これから本部に戻って、一緒に少佐に怒られてくれる?」 「頼まれなくても、間違いなく、お前と一緒に怒られるさ」 バトーは口ををへの字に歪めると、肩を竦めて見せた。 「なら、いいや」 トグサが笑うとバトーは呆れたよう眉間を寄せる。
その表情が完全に強張ったものでなくなったことに、トグサは心の底から安堵した。
この義眼の大男は、なんて繊細なんだろう。 その、脆い部分を補う為に必要だというなら。 いつだって、傍にいる。
差し出された手を離したりしない。
そう思った。
END of ALL
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