裏パラ「鬼の守人」これにて終幕。 長々とお付き合いいただき、ありがとうございました。
好き勝手の設定で、やりたい放題、書いてましたが。 それを好きですとか、言ってもらえて、本当に嬉しかったです(笑) 書いてヨカッタなと思いました。
最後まで、楽しんでいただけるといいな、と思いつつ。
十、鬼の守人
「これは、兎草とお主の約定になろう。わしの許しは必要ない。兎草の判断が答えを出すだろう」 長く沈思していた大輔は、そう言って頷いて見せた。 ぽかりと口を開けていた素子も、呆れた表情は変わらずだったが、 「お祖父さまの言う通りね。拾ったのは、兎草だもの。兎草が決めることだわ」 馬濤の提案を受け入れた。 「兎草、あんた、どうしたい?」 「どう、って・・・・」 素子の強い視線を受け、兎草は困ったように眉を寄せる。 それから、この場にいる皆の顔を見回す。
大輔と素子は、兎草の答えを待ち。 庇護者たちは、心配そうに兎草を見守るのみ。 断駒と淵駒に至っては、きゃぁきゃぁと兎草を煽って喜んでいた。
誰も助け舟を出してくれる様子はない。(当たり前だが) 兎草は口許に手を当てると俯いた。 考える。
どうしたらいいのか。 どうするべきなのか。
いや、自分がどうしたいのか。
誰の意見を聞くとか、誰の為とか、そういうことじゃなく。 それが重要で。 暫くの後、兎草は傍らに立つ馬濤をまっすぐに見上げて、
「守られるばかりじゃなく、俺も、馬濤を守るってことだよな?」
問うた。 それならば、いい。 兎草は、そう思ったのだ。
「そうさ」
その馬濤の答えに、兎草は頷く。 それは、契約了承の合図だった。
兎草はいつも、守られていた。 大輔にも、素子にも。 そして、庇護者たちにも。 それはとても有り難く、嬉しいことで、兎草は嫌だと思ったことはない。 でも、それでも、やっぱり心苦しく思うことはあった。 自分を愛しんで、守ってくれると解っていても、守られるばかりの自分を情けないとも思っていた。 力があるのに使えず、自分の意思通りにはならない力ばかりが、皆に迷惑をかける。 それが、兎草は堪らなく、嫌だった。 もう、そんな思いをしなくてもいいんだ。 この男と契約すれば。 「・・・・じゃあ、馬濤は俺の傍にいればいい」 兎草は、にっこりと笑った。
「俺が、馬濤を守ってやるよ」
対等。 これは、兎草がずっと欲しかった関係だ。
「そうか」
馬濤は、兎草のその了承に、嬉しそうに笑うと乱暴に茶の髪を撫ぜた。
契約は、成った。
[いいのか、素子] 軒下から、波厨の密やかな声が届く。 素子はただ、契約を交わした兎草と男を眺め、答えを口の端にのせる。
「───あの子が選んだなら、否やはない」
主の強いその声に、犀灯は静かに耳を傾けた。 ずっと護ってきた小さい子供。 心配だけれど、主の言うように、否やはないのだ。
彼が選び、彼が望んだ。 それが、総て。 それが、契約。 何者も、それを侵すことは出来ない。
心配だ、愛しい、という優しい檻に閉じ込めることは、尚更に出来ないのだ。 人で無い、妖しの者にでも、それは良く解った。 素子は、弟を心配する心優しい妖しの者たちの名を呼ぶ。 「波厨、犀灯、防摩」 美しい笑みが唇を彩り、言葉を紡ぐ。 「私が、あの時、お前たちを選んだように。あの子も、あの男を選んだ」 [─────そうだな] 「そうよ」 波厨の溜息のような声に、素子は頷いた。 [もし、あの男が危険だと判ったら。俺が喰ってやるよ。お嬢も皆も、心配することないよ] それに、今まで黙っていた防摩が眠た気な声で言う。 常、素子から離れたことのない防摩は、兎草と密に接していたわけではないが。 それでも、無邪気にじゃれてくる小さな子供を愛しいと思う気持ちはあった。 小さい子供に何かあれば、自分の主人が深く悲しむことも想像に難くない。 だったら、自分に出来ることをすればいいのだ。 波厨も、犀灯も、そうすればいいのだ。 それで、何の問題もない。 防摩は、ふっさりとした尾を揺らし、主人の顔を見上げた。 [あの男は喰いでがありそうだしね] 「─────そうね。もし、おイタをするような奴だったら、その時は防摩に喰べてもらうわ」 素子は、笑いながら、防摩の大きな頭を撫でた。
「祖父さま、俺、馬濤と契約する」 茶の目を真っ直ぐに大輔に向け、兎草は言った。 ともすれば、姉の素子よりも頑固で意志の強い光を放つその目に、心の内で笑いながら、大輔はゆっくりと頷き、兎草を手招いた。 「兎草、お前は今日、新たな力を手に入れた」 祖父の神妙な声に、少し驚いたトグサだったが、その目がとても優しい色をしてるのに気付き、何故だか泣きたくなった。 大輔の前に立ち、大人しく、その言葉を聞く。 「力とは、己の心の鏡。心を澄まし、その声に耳を傾けよ」 目の前に立つ、大輔にとって、未だ小さな子供が。 自分の意思で、力を選び取った。
守る力を。
それが、何より、大輔を喜ばせていた。 「その力がお前を生かすよう」 兎草の手を取り、言の葉を呪にのせ、寿ぎの言葉を贈り、 「お前の歩む道に幸い多かれと祈る」 そして、同時に導きの言葉を贈る。 「馬濤はお前の良き助け手となろう。しかし、その強き力に振り回されるな。お前は、お前の力を揮うがいい。いいな、兎草」 「はい、祖父さま」 兎草は、こっくりと頷いた。 茶の目が、嬉しそうに笑むのを大輔はただ、見守った。
雛鳥はいつか巣立つ。 それが寂しくとも、親鳥はそれを見守るのみだ。
「馬濤」 「何だ、家長」 嬉しそうな馬濤は、すでに気安い呼び方で大輔を呼び、ふらふらと近付いてくる。 そんな馬濤に、 「宜しく頼む」 大輔は、深々と頭を垂れた。 そんな姿を見たことのなかった兎草と素子は驚き、そして勿論、頭を下げられた馬濤も驚いた。 けれど、馬濤はすぐにニヤリと笑い、頷いた。 「任せな。こいつは俺が護ってやるよ」 そんな自信満々の馬濤に、兎草の笑みが零れた。
「お祖父さま、そろそろ中に入りましょう。冷えてきたわ」 話が纏まりを見せたところで、素子はそう切り出した。 大輔も、それに頷く。 「そうだな」 縁側に座っているには、そろそろ向かない時間帯だ。 漆黒の絹を空が纏い、空気が冴え、皮膚を刺す。 大輔が立ち上がり、障子戸を開け放ち中に消えると、大人しく沈黙していた紅と蒼の光が瞬きだした。 ≪わーいわーい!これで、馬濤さんにお話もっと聴けるね〜≫ ≪そうだね、断≫ ≪ヨカッタね〜、淵≫ ≪鬼喰いなんて、ハジメテだものね〜♪≫ ≪兎草くんは、いい拾い物をしたねぇ♪♪≫ そして、明滅する二つの光は、自分達の主を追うように室内に消えた。
断駒と淵駒の会話に苦笑を浮かべ、それを見送った兎草は、縁側に腰を下ろすと、スニーカーを脱ぎ捨てた。 それを拾い上げてから、馬濤を呼ぶ。 「馬濤、来いよ」 「おう」 馬濤は地を滑るように兎草に近付き、縁側に足を踏み入れた。 「人家に入るなんて、何百年振りだろうなぁ。しかし、洒落てるな、お前の家」 「そうか?普通の日本家屋だけど。てか、馬濤って、いったいイツの時代まで生きてた訳?」 「あ〜〜?取り合えず、戦乱があった頃までは生きてたが」 「戦乱??何時代だよ、まじで」 二人はたわいない会話をしながら、縁側から続く、回り廊下を玄関の方へと消えていった。
お茶の道具を片付けながら、それを聞いていた素子は、くすりと笑む。 「あれが、鬼喰いなんて、珍しい霊体だとはねえ」 [鬼喰いは、もしかしたら、妖しの者より稀有かもしれん] 波厨が縁の下から抜け出し、素子に告げた。 黒い尾を揺らしながら、犀灯も頷く。 [それだけの同族喰いは、妖しの者でも、滅多にいないからな] [妖しの者は、余計な狩りはしない。それをするのは、生者も死者も人間だけだ] 「そうね・・・・では、あの男は余程、狙われたのね」 素子は少し考える仕草をして、それを振り払うように笑った。 「でも、ああやって居るということは、強いということの証。それは、何よりも心強いわ。あれは、あの子の守護に憑くんですもの」 庇護者たちも、それは、認めざるを得なかった。
あの力は、異様かつ強靭。
鋼のような強固さだった。 敵であれば、これ程、恐ろしい相手は居ないが。 しかし、この男は敵ではない。 ならば、一層に、強いほうが良いのだ。 男自身が、小さな子供を何者からも護る、力そのものなのだから。 「でも、あれね。あの男、守護者というよりは、守人と言う方がしっくりくるわね」 素子は、ぽつりと呟いた。 「守護者、なんて、高尚な言葉が似合わない男だもの」 [違いない] 犀灯は、ひょいと縁側に上り、笑った。 後について音もなく、その隣に並んだ波厨も、可笑しそうに口を歪めた。 「じゃあ、中に入りましょう。お前達も、お茶を飲みなさいな」 素子が、お盆に茶道具をのせ、立ち上がる。 主である素子の動きに合わせて、犀灯は未だうとうとしている防摩を前脚でちょいちょいと突付いた。 [防摩、部屋に入るぞ] 白い長毛が、わさりと動く。 [・・・ん?あ、話はもう終わったんだ?] [つい、さっきな] 大きな欠伸をしながら、大きな身体を動かした防摩に、波厨が頷く。 「お茶の時間よ、防摩」 素子は笑いながら、大輔達が消えた障子戸をくぐった。 「お嬢、こないだ喰べさせてもらった”ぴざ”が食べたいなぁ」 防摩は、そのシャンとした素子の後ろ姿に声をかけた。 すると、遠くから、しょうがないわねと声がして。 「レンジでチンのやつでいいならね」 と笑い声が続いた。 それに、波厨が嫌そうに、目を眇める。 [お前、あんなのが、気に入ったのか?] [あれ、面白い味がしたんだよ。もう一度、食べてみたいんだよなあ] [防摩も珍しい妖しの者だぜ。人間の食べ物を喜んで喰うんだからな] 犀灯が笑いながら長い尾で、ぱしりと波厨の背を打った。 [まぁ、何はともあれ、行こう。お嬢を待たせる訳にはいかない] [そうだな] 白と黒、麦の穂色をした妖しの者達は、一塊になって明るい光の中に入っていった。
「俺が傍に居て、お前を護り、生かしてやるよ」
「馬濤は、俺の傍にいればいい。俺が馬濤を守ってやる」
これは、人と、人ならざる者、妖しの者達が紡ぐ話。 その、ほんの、一欠片。 この後、何が起こるかは。
誰も知らない。
END
終幕とか言っておいて。 実は、何気に続いてる罠。
だって、私、大切なあの髭の人を書いてないことに気が付いてしまッ(遮断)
いや、断じて! 断じて、忘れていた訳ではないのです!!(強調) 髭の人は、妖しの者としてじゃなく、人間で出そう♪とか、ものっそウキウキしてたんですが。 そしたらですね。 話の流れからして、ぽーんと出すことが出来なかったというオチが・・・orz(考え無しメ)
なので、続編、書きます。 終わるといった、その返す手で、なんだよー?って感じですが(笑)
折角、続編を書くのだから。 今度こそ、当初の目標だった"お色気"を盛り込んで。 それから、素子お姉様とその下僕(眷属)たちのお話なんかも書きたいなと。 構想が膨らみました。(妄想、際限を知らず) 長いお話、というよりは、短編でたくさん・・・って感じになる予定です。
もう少し、お付き合いいただけると、有り難かったり(汗)
これをオフで出す本のうちの一冊にしようかなと思ってみたりしてます。 家庭内手工業で、コピ本→小部数発行になるかと思いますが・・・。
オンで上げた話を大幅に加筆(修正)して、書き下ろし数本を加えて。 如何でしょうか?(訊くなョ)
|