仕上げるまで、●ヶ月かかったSSだったり。 (最近、そんなんばっかりですよ) 自分で書いてて痛い話、だったからかも・・・・orz アップするの、どうしようかと、考えたりもしましたしね。 でも。 あえて、アップしました。 裏で、ですけども。(全然、裏な内容じゃないんですが)
怒りも悔しさも、哀しみも辛さも、何もかもを内包して。 前を見ることの出来る人。 泣いても、叫んでも、苦しんでも。 正面から見据えることをしようとする人。
そんな印象をトグには受けるのですよ。 だから、こんな話が出来たわけで。 弱そうに見えて、強い。
逆に。 バトさんは強くて、弱い人に思える。 繊細で臆病で。 でも、それだけじゃない。 そんな人。
どちらも、格好よい男だなと。 思うわけで。 ←だんだん、何言ってんだか解らなくなってきた模様。
「おい、本当に大丈夫なんだろうな?このままなんてこた・・・」 バトーは目の前の女に、掴みかからんばかりの勢いで問いかけた。 「一時的な視力障害だ。時間がたてば徐々に回復し、元に戻るそうよ」 女、草薙はそう言って、バトーを見上げた。 「イシカワ達に任せたデータのせいで、電脳に何らかの負荷がかかったことが原因だそうだけど」 「────────」 「それだけじゃ、なさそうね、バトー?」 「あれ、視たか、少佐」 「まだよ」 バトーは、自分の義眼を覆うように目元を押さえた。 閉じられない無機質の目の奥で、数時間前に見た記録が再生される。 「あいつに、視せるんじゃなかったと、今は思う」 暗い淵に沈むような声に、自分の声かとバトーは渋面を作った。
任務に、私情をはさむなど、らしくない。
が、そう思う心で。 確かにあの時。 バトーは思った。 トグサに視せるべきではない、と。 しかし、あの男の目は、きっと真実を見つめなければ、納得しない。 そうも思った。
結局、バトーは、トグサの意思を尊重する方を選んだ。
選んで、今の状況である。 苦いものが、咽喉の奥を流れ、身に染み込んでいく気がする。 バトーの心の奥をまるで見通したかのように、草薙が口を開いた。 「でも、貴方は視せる事を選んだ。そしてきっと、あの子もそれを選ぶ」 だから、そうしたんでしょう?草薙はそう囁くように言う。 (何よりも、それが解っていたから) バトーの電脳に、草薙の声が響いた。
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犯人と思われる男の部屋には、ネットの海に漂うストレージの形を模した円形の外部記憶装置があった。 その他は、恐ろしいほど物が少なく、人が生活しているとは思えぬ部屋だった。 男の全ては、外部記憶装置の中に、集約されていたのだろう。
それ以外を男は必要としていない。
一日の記憶。その日、自分が見たもの。感じたもの。 それらの残滓がことごとく記録されていた物のみが、自分だったのかもしれない。
物証を確認する為に、それらの記録を再生しなければならなかったが。 バトーは、それに手を伸ばすのを躊躇った。 いつもなら、これ程、躊躇ったりしないというのに。 今回だけは、バトーの心は酷く落ち着かず、手は鉛のように重くなっていた。
犯罪を犯した者の、暗い暗い記憶。 他人を喰い尽してまでも、自分を優先させるエゴ。
その塊を覗き見しなければならないのは、苦痛以外のなにものでもない。 しかし、それらをやり過ごす術をバトーは持っていた。 長い経験から得たモノ。 どれほど慣れようと、苦痛を感じはするが、それをオブラートに包み、感覚を鈍くすることは出来る。 そうすればいい。 が。 それを使えなくさせている原因があって。 それが、誰かは、解っていた。
その誰かが、バトーよりも先に動いた。 トグサの手が、現実世界に置かれたストーレージを撫でた。 バトーではなく、トグサが、躊躇うことなくそれに手を伸ばす。 それを呆然と見、次に、この男なら、そうすることが解っていたことを思い出した。 義眼の見つめる中。 トグサは身代わり防壁を上着から取り出すと慣れた手つきで、自分の首のプラグにはめ込んだ。 そして、コードを引き出しながら、背後に控えていたバトーを振り返る。 「旦那は、どうする」 いつもより、感情を抑えた目のトグサに、バトーは胸の奥に拡がるものを止められなかった。 しかし、黙っている訳にも、先に進まない訳にもいかない。 大きく息を吐き出すと、バトーは答えた。 そして、トグサのように、身代わり防壁を取り出すと装着した。 「何があるか、判らんからな。俺も潜る」 「それは、俺じゃ不足だって事?」 トグサの眉間に皺がより、声のトーンが下がる。 しかしバトーは、それに気付かぬ振りをして、言葉を続けた。 「いーや。用心深いって事さ、俺がな」 口では軽くあしらったが、内心は違う。 バトーがトグサに感じていたもの。
それは、不足ではなく、不安だ。
けれど、バトーはその思いを噛み砕いた。 任務に私情を挟むなど、らしくない。
そう、全く、らしくない。
だから、その思いは隠しておかなければ。 コードを引き出しながら、バトーはストレージに近づいた。
こんな思いを抱かせる、忌々しいデータのストレージ。 くそったれのデータなど、消えてしまえばいいものを。 バトーの舌打ちは、電脳の中にだけ響き、外に洩れ出ることはなかった。
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これから見る映像。 それがどんなものであるかは、当然のことながら、見る前から判っている。
個人を狙った無差別なテロ。 連続幼女殺人事件の犯人の記憶。 (今は”記録”といった方が、正しいか) 隠れ家にある、外部記憶の存在。 今いるのは、その真っ只中だ。
犯罪の瞬間が刻み付けられた、犯人を犯人たらしめる、決定的な証拠。 残酷な真実が、永遠に再生される記録。
バトーは、これが、トグサには辛いものだということが解っていた。 だから。 らしくなく、私情が咽喉に絡んだ。
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目を閉じたトグサの眉間は、深い皺を刻み、瞼が微かに震えている。 バトーは、再生される映像を目の端で確認しながら、トグサからも目を離さずにいた。
再生されるたびに。 目の前で、死に絶えていく少女達。 恐れの内に、死を突きつけられる。 か弱い声で、助けを求め、父母を呼ぶ。
その映像はリアル。 まるで、自分が犯人になったかのような錯覚を起こさせる。
そして、最後の少女が再生された時。
トグサの顔が、苦痛に歪んだ。 閉じられた瞼が、震え。 声にならない悲鳴が、飲み下された。
けれど、バトーには聴こえた。
耳を塞ぎたくなるような、悲痛な声が。 聞いたことの無い色をした、トグサの声が。
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過去の事象に、手を伸ばしても、救えない。 そこには、深い虚しさがある。
沈み込み、抜け出せない、底なし沼のような暗部。 怒りや悲しみを。 それらは食い尽くしてしまう。
真っ暗な空が堕ちてくる様に。 暗い沼の底に沈んでいく様に。
身も心も、覆い尽くす。
なんて、哀しい闇だろうか。 なんて、苦しい闇だろうか。
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やめろ!その子から手を離せ!! やめろーーーーーーーーっ!!
トグサの悲痛な叫びが、電脳に響いたのを思い出し、バトーは重い息を吐いた。 ここは、病院だ、そう心に言い聞かせ。 また、重い息を吐く。
あの時。 ストレージから、無理矢理にトグサを引き上げた時。 声にならない声が、バトーを抱きしめた。
見たくない。 こんな、こんなのは、いやだ。
消え入るような言葉。 それは、多分、心の奥で。 トグサが吐いた本音だったに違いない。
最後の犠牲者になった少女は、トグサの娘と同い年の子供だった。
パパ。
少女は父親を最期に呼んだ。
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「どうだ、相棒」 とうに医師の診察を受け終わったらしいトグサは、診察室の前のソファの一角に腰を下ろしていた。 バトーはトグサの傍まで行き、あと数歩というところで足を止め、いつもの調子で話しかけた。 ざわつく心は、隠し、無いものにする。 トグサに、悟られぬように。 更に、いつもの声でトグサに問うた。 「どんな具合だ?」 「───旦那」 それに瞬きを数回し、トグサはゆっくりと、声の位置を確認するかのように目を上げた。 視線は確実に、バトーが立つその場所を捉えていた。 口許には、苦笑が浮かんでいる。 「何とか───と、言いたいとこだけど。視界が悪いね」 トグサは目を瞑ると目頭を押さえた。 その仕草が、酷くバトーの感情を刺激した。 心の表面を引っ掻かれたような、ちりっとした痛みが走る。 「まったく見えねぇのか?」 バトーが眉間を寄せて訊ねると、トグサは首を横に振った。 そして、腕を伸ばせば届くところにいるバトーを再び見上げ、義眼に視線を合わせた。 「いや、そうでもない。酷く不明瞭ではあるけど、見えるよ」 いつもと変わらぬ、強い意志の塊のような茶色の目が、真っ直ぐにバトーを見た。 それで、少しだけ安心する。 トグサの感情を抑えた目は、見ているほうが不安になるのだ。 今のような、目。 感情を素直に表す目じゃなければ、ならない。 バトーの心など知らぬげに、トグサは言葉を継いだ。 「視界を補助するソフト、ってのがあるらしいんだけど、やめたよ」 「何でだ?」 「任務に支障をきたすって、旦那は怒るかもしれないけど」 知らず、詰問のようになってしまったバトーの言葉に、トグサは目を逸らして続けた。 「必要ない、と思った」 それから、使いたくないが本当かなと呟くように言う。 バトーが更に問い詰めようとするとそれを遮るように、
「バトー、すまなかった」
いつもより低いトグサの声が、バトーの鼓膜を震わせた。 名を呼ばれた上での、いきなりの謝罪の言葉。 バトーは驚き、それから、深く息を吐いた。 それから、トグサの隣りに腰を下ろす。 「いきなり、なんだよ。らしくねえ」 いつもの口調を装った。 「いや、みっともないところを晒した」 その声は、掠れて、聴き取りずらかったが。 バトーの耳には、はっきりと聴こえた。 「あの手の映像は、今までだって嫌になるほど見てきたのに、情けないな」 自嘲の響きが、そこにはある。 組まれた両手に、顔を埋めるようにしたトグサの肩が微かに震えているのに気付いた。 その肩を抱いて。 震えを止めてやりたい。 そう思ったが。 「ンな事はねえよ」 バトーは足を組んで、背もたれに体を預けるにとどめた。 「それが、人として当然の反応だ。まして、人の親なら、なおさら」 そして、トグサには、そういう感情の起伏、揺らぎが必要なのだ。 この男が、この男である為に。 どれほど、痛みを伴っても。 「お前の娘と同じ年だった」 「・・・・・バトー」 「いいか、お前は、そういう感情を忘れるな。これから先も、ずっと持っていろ」 視線は合わせず、バトーは自分の中に息づく、本音を語った。 それが、必要なのだ。 自分は。 そして。
「俺達には、それが必要だ」
一瞬の間が、二人の間に落ち。 その後で、トグサが口を開いた。 「バトー、俺は」 一端、口を開きかけたが、閉じ。 けれど。 誰に聞かせるものでもないような呟きのように、トグサは言葉を紡いだ。 バトーは、静かにその横顔を眺めた。 「俺は、誰も彼も、救えるなんて・・・そんな傲慢なことは思っちゃいない」 不明瞭だというその目が、硬く握られた両手を見つめている。 その光が、心に深く差し込むのをバトーは知っていた。 「けど、自分の手で救えるものがあるなら。せめて、それだけは確実に救いたい」 思いの強さを込めて、トグサはそう言い。 「そうは、思う」 両手から視線を上げ、バトーの義眼を捉えた。 茶の瞳、その光は、心までも捉える。 バトーは、それに答えるように頷いた。 「良いんじゃねえの、それで」
不明瞭な視界は、それでも彼を繋ぎとめることは出来ない。 諦めや、絶望には。
トグサは、泣き、叫び、苦しんだとしても。 それらを振り払って、先にある温かい、希望のようなものをその目に宿し。 その手に掴むのだ。 底無し沼の暗部も、真っ暗な空も。 彼を捕らえる事は出来ない。
「お前がそうしたいなら」
そうすればいい。 助けが欲しいなら、助けに。 傍にいて欲しいなら、傍にいてやる。 そして。 どんなことでも、してやろう。
バトーは、その本音だけは、語らずに飲み込んだ。
本音を隠したその声が、静寂に溶けて。
閑散とした病院の気配に、不意に気付いた。 バトーも、そして、トグサもだ。 少し、照れたような表情を浮かべたトグサが、 「さて。本部に、戻りますか」 そう言いながら立ち上がり、バトーを見下ろした。 それを見上げ、 「おい、歩けるのか?」 眉間の皺とともに聞くと。 トグサは首を傾げ、それから肩を竦めた。 「歩けるよ」 それに、不安がまた、首をもたげる。 「大丈夫なのか?まじでよ」 トグサは、いつものような生意気な笑顔を浮かべると、顎でバトーを促した。
「あんたが、前を歩いてくれるならね」
心の奥底に隠し通したモノが、音も無く、溶けていった。 バトーはそこで、やっと安堵の息を吐いた。
END
ヒトは、残酷な牙をその身に内包する生き物。
でも、ヒトよ。 その牙を他人に向けてはいけない。 その牙は、ヒトを傷つけ癒えない悲しみを与えるのみの物。
だから、ヒトよ。 その牙を捨てよ。 永遠に。
其れが出来ないのならば。 隠せ、心の奥底に。 誰の目にも肌にも触れさせず、永遠に隠すのだ。
そうすれば。 この世に溢れる悲しみを少しでも減らすことが出来よう。
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