| 2005年06月21日(火) |
常世 ─連鎖─ 「常世、散る花、その姿」 �� |
一度にアップしようと思いましたが、分割。
バトグサに見せかけて、モトグサちっくな罠。 ・・・・・・どうなの?(汗)
ほんとは、もっとバトグサ的にしたかったんですが。 書いてるうちに、こんなことになった。 ・・・・・・どうでしょうか、缶さん??(訊くなよ)
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少しだけ欠けた、いつもの日常の中、任務をこなし。 彼女のいない穴を必死に埋めようとした。 皆が、それぞれの方法で。 出来る限りの力で。
書類整理が一段落したトグサは、ふらりと屋上に足を向けた。 雲一つない晴天の中、フェンスに肘をつき、眼下を見下ろす。 増殖し続ける都市の姿をただ眺め、その眩しさに目を眇める。 と、背後から、聞き慣れた女の声がトグサの名を呼んだ。
「トグサ」
少し低い、けれど柔らかい、彼女の声。 待ち望んだ声だ。 トグサは振り返り、草薙の姿をその目に捉えた。 「───少佐・・・もう、動いても?」 そこには、以前と変わらぬ、美しい姿があった。 じんわりとした、実感がトグサを撫でる。 「本当なら三日でも、良かったんだけれど。課長に止められてね。無駄に休んでしまったわ」 紅い瞳が細められ、唇が笑みを浮かべて、トグサを見た。 「おかえりなさい」 何とか紡ぎだしたその言葉に、草薙は微笑むと、頷いた。
トグサの寄り掛かったフェンスを草薙は軽く飛び越えると、ビルの際に立ち、吹き上げる風にその身をなぶらせた。 紫の髪が、その風に揺れる。 「本当に、動いても大丈夫そうですね、少佐。安心しました」 一連の動きに、まったく隙は無く。 トグサは、そう言って、草薙の背を眺めた。 すると、草薙は肩越しに振り返り。 「まるで、生きた人形ね」 囁くようにそう言い、以前と変わらぬ美しい唇に笑みをのせた。
「あれほど、死に近づいても。この身は死を受け入れない」
紅い瞳は、トグサから離れ。 拡がり続ける眼下の景色に向けられた。 そこには、僅かばかりの自嘲の色が含まれていた。
トグサは、それを敏感に感じ取り、確実に捉えてしまった。
常、隠し続けられているであろう、感情の一端。 草薙の素の顔。 それは、剥き出しのゴーストが揺らぐ姿。
胸に抜けない棘が刺さり、深く抉られるようだ。
聴きたくない。 見たくない。 そんな言葉も、表情も、似合わない。
「違う!」
トグサは、こちらを見なくなった草薙に向かって、叫んだ。 口に出さなければ、泣いていたかもしれない。 あの日、飲み込んだ叫びが溢れて、トグサの咽喉を詰まらせた。
「──────違います。生きている、人間だ、貴方は」
情けなく掠れていく声で、
「義体であろうと、何であろうと、少佐は生きてる」
トグサのゴーストは叫んだ。
「人形だなんて、言わないで下さい。少佐には・・・似合わない」
彼女の内に、弱く柔らかな部分があると解っているのに。 強くあって欲しいと願ってしまう。 これは、エゴだ。 生身であり続ける自分の、義体である強き者への欲求。
生きて欲しい。 どんな姿になっても。 死なないで。
生きてくれ、と。
そう思ってしまう、身勝手なゴーストが、いる。 なんて、ずるい想いだろうか。 トグサは、握り締めた両手に額を押し当てた。
「悪かった」
離れていた草薙の声が、不意に、近くから聴こえた。 目を開くと、気配なく近づいていた草薙の爪先が見えた。
「お前がそういう男だから、甘えてしまうのね。私も・・・バトーも」
優しい声が、降ってくる。 トグサはかぶりを振ると、言葉を続けた。
「俺だって、貴方達の強さに、甘えてるんです。偉そうに、こんなこと、言えないんです」
トグサの消え入りそうな、微かな囁きに応えるように。 耳元で、草薙の静かな、そして温かな声がした。
「トグサ、心配してくれて、ありがとう」
柔らかな手の平が、まるで子供をあやす様に、トグサの髪を撫でた。 何度も。 何度も、慰めるように。 そして、彼女の頬が、そっとトグサの髪に触れた。 その優しい感触は、生きて、今ここに彼女がいることを教えてくれた。
これが、現実であるのだと。
現実をつれて、草薙は戻ってきたのだと。
トグサは、それを黙って受け入れた。
痛みと、安堵。
二つの心をしっかりと自分の手に、握り締めながら。
常世とは、散る宿命。 その姿。 艶やかに、しなやかな花の如く。 咲き誇り、その後。 潔く、見事に散リ逝く。
常世とは、有限の花。 大輪の美しき、命。
END
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