SS‐DIARY

2022年12月13日(火) (SS)bitbirthdaybirthday 塔矢アキラ誕生祭21参加作品



進藤から別れを告げられた。


『悪い、ごめん。他に好きなヒトが出来た』


淡々と言うその口が信じられず、瞬きすら出来ない。


『これ以上続けても、おまえとの未来なんて無いから』


こんなに簡単に人は人の心を切り裂いてしまえるのか。

こんなにも容易く、人は人を壊してしまうことが出来るのかと、思いながら涙がこみ上げて来るのを堪えきれない。


(これは夢だ)


耐えがたい痛みに歯を食いしばりながら思う。


(本当の進藤は絶対にこんなことをぼくに言わない)


仮にもし本当に別れ話になったとしても、こんな思いやりの欠片も無い冷淡な言い方はしないと自分自身に言い聞かせていたら、目の前の進藤が苦笑のように口角を上げた。


(もしかして、おれはこんな冷たい物言いはしないなんて思ってる?)


嘲るような言葉に全身を刺し貫かれ、ぼくは叫びながら両手で顔を覆い、そして目を覚ました。




薄闇に沈む部屋。

カーテンの隙間から微かにのぞく、白んで来た空。
ああ、本当に夢だったのか、良かったと、思うより先に嗚咽が漏れた。


苦しい。
苦しい。
苦しい。
苦しい。


夢の中の自分が感じた痛みがそのまま生々しく残っている。


痛い。
痛い。
痛い。


心が、体が痛くて辛くてたまらない。

もう今まで何回こんな夢を見て来たことか。心を通わせる前、ぼんやりとした認識しか持っていなかった頃から幾度と無く夢の中の進藤に傷つけられて来た。

つき合うようになってからは更に、体の関係を持つようになってからはもっと残酷に。

進藤はぼくに別れを告げる。


(でも何も今日じゃなくても良いのに)


背中に当たる進藤の肌の暖かさを感じながら歯を食いしばった。
関係は上手く行っている。

碁の方も問題は無く、充実していると思う。

少しずつ明るくなって行く部屋の隅には碁盤。昨夜寝る直前まで二人で打っていたものだ。最近は打った後の興奮や没頭のまま行為に至ることも多い。

ケダモノだと進藤の言う通り、本能で生きてるなとそう思う。
だからこそ、心の奥底ではこんな日々が終わることを恐れているのかもしれない。

嬉しくて、楽しくて、有頂天になりそうな自分を自分自身が呆れ果て、冷水を浴びせかけているのかもしれなかった。


(だからってワンパターンが過ぎる)


どれ程自分は進藤に嫌われことを恐れているのかと、止まらない涙を拭っていたら、ふいに温かい腕に抱きしめられた。


「イヤな……夢でも見た?」


半分寝ぼけたような声が尋ねて来る。


「大丈夫……だから……それ」


返事をしてもいないのに、進藤は繰り返し、そしてぼくのうなじにキスをした。


「だいじょーぶ、だいじょーぶ」


小さい子どもをなだめるかのような言い方にムッとする。


「……無責任な」
「でも、ほんとに大丈夫だから」


進藤は腹から胸からなで回し、満足そうに笑った。


「おれの恋人は今日も抱き心地最高だなぁ。……碁も強いし、美人……だし」


とろとろと今にも再び眠ってしまいそうだ。


「たぶん一生……尻に敷かれっばなし……だと思うけど」


シアワセと、そこだけ妙にきっぱりと言った。


「シア……ワ……セだから……だいじょ……ぶ」


すーっと深く息を吸い込む音が聞こえ、そのまま進藤は静かになった。


(なんか目茶苦茶なことを言っていたな)


寝ぼけているから理論立てもおかしいし、まともな日本語になっていない。
それでも、気がつけば噛みしめていた口元は緩み、涙も引いている。


(まったく)


進藤のこういう所が本当に愛しくて、本当に憎らしい。

目をやるとベッドサイドの時計が今はもうはっきりと見える。
12月14日、午前六時二十分。

そろそろぼくだけでも起きた方が良いのかもしれないけれど、まだ胸の奥底にじくりと痛むものがあったので、ぼくは彼の温もりにつつまれることを選んだのだった。

end


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