| 2021年06月14日(月) |
(SS)情けは人のためならず |
進藤を甘やかそうかどうしようか、しばし迷った。
彼は最近とても忙しいし、人間関係でのトラブルもあった。相当疲弊しているだろうし、落ち込んでもいるだろう。
「だったらアイスの一個くらい」
目の前にあるのはハーゲンダッツの新作だ。テレビのCMを見て進藤が食べたがっていたのを覚えている。
仕事帰りにスーパーに寄って、日用品を買おうと思ったら偶然見つけてしまったのだった。
『駄目だ、キミ、そうでなくてもジャンクフードばかり食べているのだから甘い物は節制しろ』
『でもちゃんとジムに行って運動してるし』
『その帰りにビール飲んだりしてるだろう。隠していても知っているぞ。駄目と言ったら駄目だ』
生活を共にしているし、生涯のパートナーだと思っているのだから健康を害して早死にされたら困る。
なので食生活には特に厳しく干渉していたのだけれど、締め付けるばかりではストレスになるかもしれない。
「よし、買って帰ろう」
決心して手を伸ばした時、その隣に置いてあるアイスもまた彼が食べたがっていたものであることに気がついた。しかもそれは安売りでは無い。
(二個はさすがに…安くも無いし。でも喜ぶだろうな)
散々迷って結局それもカゴに入れる。
「甘やかし過ぎかな」
ため息をつきつつ歩いて行くと今度は彼の食べたがっていた新作スナック菓子を見つけてしまった。
(いや…さすがにこれは…)
でも昨日も非道く疲れていたし、こんなもので気が晴れるなら買ってやってもいいのではないか?
ため息をつきつつスナック菓子をカゴに入れる。
ところがその先でも(うっ、これは最近流行の生クリームデザート)(前に飲んで気に入ったと言っていた中国のビール)(寿司のパックが半額!)(ベーカリーに焼きたてピザが!)(この間、興味津々に見ていた台湾パイナップル)と、進藤の好きそうな物が連続で登場して結局皆買うはめになってしまった。
「いくらなんでも買い過ぎだ…」
両手に一つずつ大きなスーパーの袋を提げてぼくは自己嫌悪気味に帰宅した。
「おかえり、遅かったじゃん」
「うん、ちょっと」
何か言おうとかも思ったが恩着せがましいのも嫌で袋をそのまま突きつける。
「何?」
不思議そうに受け取った進藤は中を見てぱあっと一気に笑顔になった。
「なんだこれ、凄い! 全部おれが食いたかったものばっかり!」
嬉しそうな顔に複雑な気持ちになりつつ、でもやっぱり買って良かったと思ったぼくは、何故かその後服を脱がされ風呂に入れられ全身くまなく丁寧に洗われた挙げ句、ドライヤーの後、マッサージまでされてしまった。
買って来たもので食事を済ませた後は歯も磨かれて、挙げ句に寝る時頭を撫でられ子守歌まで歌われてしまった。
「え…進藤…?」
「何? もう一回マッサージする?」
「…いや、いい」
頭の中は疑問符で一杯だったが優しくされるのは単純に心地よい。
えーと…。
あれか?
もしかして、たぶんあれか?
『情けは人の為ならず』
進藤のため、少しだけ甘やかしてあげようと思ったぼくは、逆に五百倍くらい彼に甘やかされることになったのだった。
end
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すごく嬉しかったので真っ先にアキラを労るために風呂に入れています。 その後ごはんで、この日の家事はヒカルが全部やっています。 えっち無しという所がポイントです。
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