待ち合わせ場所で顔を合わせるなり進藤が言った。
「まるで花嫁さんみたいだな。すごいキレイ」
視線の先にはぼくが指導碁先で頂いて来た紫陽花の花束。 白い花が美しいと褒めたら切って持たせて下さったのだ。
「は? だれが花嫁って?」
「だってそれ、結婚式の時のブーケみたいじゃん」
確かに見ようによってはそう見えなくも無い。
「進藤」
「ん?」
「持て」
有無を言わさず束の半分を押しつける。
「なんだよこれ」
「良かったな。これでキミも花嫁だ」
「はあ? おれはただ…」
「ぼくが女顔だとか、そういう理由で言ったのだったら立派に容姿いじりの差別だ。軽蔑するぞ」
「ええええええええ」
進藤はぼくを侮蔑するために顔のことを言ったりしない。単純に思ったことが即口に出るタイプなので悪意が無いのはわかっている。
わかっているのだが。
(だからってどうして花嫁なんだ)
それはだれのだ? キミのか? それとも他のだれかのか?
喉元まででかかったけれど我慢して飲み込む。
「文句があるならじゃんけんで決めようか」
「おう、望む所だ!」
「最初はグー」
で、ぼくはパーを出した。
「ぼくの勝ちだな」
「きっ、汚い。じゃあ次おれの番!」
「いいよ」
「最初はパー」
チョキを出す進藤にぼくはグーを突きつけた。
「卑怯!」
「何がだ。だったら次もキミがやればいい」
「おう!」
「最初はチョキ」
チョキを出すぼくに進藤はパーを出して負けた。
「なんでいきなり素直だよ!」
「いや、最初はチョキって言うから」
「だったらずっとそれで通せ!」
進藤は馬鹿だ。
馬鹿で馬鹿で馬鹿で馬鹿で、そして心から愛しいと思う。
それから結局小一時間、ぼく達は道ばたで不毛なじゃんけんを繰り返したのだった。
end
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