SS‐DIARY

2020年12月15日(火) (SS)欲しいもの/塔矢アキラ誕生祭19様参加作品

指輪も花もケーキもいらない。

ワインも少し贅沢な料理も財布もコートも手袋もいらない。

ついでに言えば傘もハンカチも手帳もいらないからと言ったら進藤は困った顔をした。

それらは今まで彼に貰ったものだからだ。


「なんだよ、いらなかった?」

「いや、嬉しかった。キミが選んでくれたんだと思うとそれだけで幸せだったよ」

「だったら何で今年はそんなこと言うんだ」
「言わないとキミ、用意してしまうだろう。だから先に言っておいたんだ。親切だよ」

「はあ? おれは今困惑の海を泳いでるけど」


九月の進藤の誕生日には靴をプレゼントした。いつもスニーカーやスポーツタイプの靴ばかり買う彼にスーツに合う革靴を贈ったのだ。


「言っておくけど靴はいらないよ。もう充分持っているし、好みがあるから」

「じゃあ…旅行とか?」

「いや、行く暇がないだろう」

「車!」

「張り込むなあ。でも免許を持っていないし」

「じゃあ家…とか?」

「買ってくれるのか。それはそれで嬉しいな」

「えー。おれローンの審査通るかな」

「通るだろう。王座、棋聖のタイトル持ちに貸してくれない銀行は無いと思うけど。でも残念ながら家でも無いよ」

「だったらなんだよ」


ため息をついてお手上げと進藤が言う。


「そうだな、実はキミを貰おうと思ってる」

「へ?」

「言葉通りだよ。キミの一生をぼくにくれないかな。他の誰にも分け与えず、ぼくのために生きて、ぼくのために死んで欲しい」

「重っ」

「だから今まで言えなかった。キミは結構冗談ぽく言って来たけれど、ぼくにはこれくらいの覚悟がいることだから」


三十四歳の誕生日にどうかキミを貰えないだろうかと言うと、進藤はすっと真面目な顔になって「いいよ」と言った。


「その代わりおまえの一生もおれにくれよな?」

「それは次の誕生日にでも指定して貰わないと」

「はぁぁぁぁぁぁぁ?  ほぼ一年後じゃん!」

「九月に先に言わなかったキミが悪い。で、どうする。くれるのか? くれないのか?」


キミも長い付き合いで解っていると思うけれど、ぼくはこんな風に重くて面倒な人間だよと言ったら進藤は笑った。


「嫌ってほど知ってるよ。でもそれでもおれ、おまえが好きだから」


不束者ですがどうか貰ってやって下さいと言われてぼくも笑った。


良かった。貰えた。

人生で一番欲しかったもの。

子どもの頃から欲しくて欲しくて餓えていたものをやっと手に入れることが出来た。


「本当に申し訳ないけれど」


手放す気は無いからねと言ったら、進藤はさらに良い笑顔になり「捨てられたら困る」と言ったのだった。



end


塔矢アキラ誕生祭19様参加作品
http://ar.flowerjelly.com/1214/2020.html


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