| 2017年02月11日(土) |
(SS)いちばん奥のその向こう |
目が覚めて傍らに眠る進藤の姿を見つけた時、ああそうだったと思った。
そして次に『やっと』と思う。
何がと言われたら上手く説明出来ないけれど、敢えて言うなら初めて彼の中に踏み入ることが出来たと、それが一番近いかもしれない。
付き合いだけは無駄に長くて、ずっと焦がれるように知りたくて、でもここまで来るのに随分かかった。
(キミは嘘が上手いから)
本心を見せず、なのにぼくを好きなことだけは隠さずにどんどん近づいて来る。
どうすればいいのか、どうしたらいいのか散々悩んで、でも結局はしたいようにすれば良かったのだと今にして思う。
「ケダモノだな」
酒の酔いと勢いと、でも何か一つでも違えばいつものように友人として眠って起きてごく普通に帰ったんだろう。
『あ、おれ―』
手が触れて、そこから進藤が近づいて来て、ぼくは触れられても逃げなかった。
たったそれだけで、ここ十年ばかりの逡巡は一気に解消されてしまった。
(とはいえ、きっとまだ、とば口なんだろうな)
入らせては貰えたけれど、進藤の中は奥深い。
本当の彼に至るまで、開けて行かなければならない扉が数え切れない程あるんだろうなと思ったらムッとして、べちりと寝ている頭を叩いてしまった。
「痛っ」
余程びっくりしたのだろう、進藤は目をしょぼつかせながら半身を起こし、きょろきょろ辺りを見回した。そしてぼくを見つけて笑顔になる。
「塔矢! おはよう」
そのいかにも嬉しそうな笑顔が勘に障って再びぼくは彼の頭を叩いてしまった。
「なんでだよう。なんでいきなり殴るんだよ」
そうしてから唐突に、はっと気がついたように言う。
「もしかしてすげー痛い? だからおれのこと怒ってんの?」
「痛いのはもちろん全身痛いよ。でも別にそれで怒ってるわけじゃない」
「じゃあなんだよ、もしかして下が嫌だった?」
進藤はすっかり目が覚めたようで、へたりとぼくの前に座り込むと、顔を覗き込むようにしながら尋ねて来る。
「おれ、上がいいんだけど、でもどうしてもお前が下が嫌だって言うなら―」
「ポジションはどうでもいい。ぼくは知識も経験も無いし、キミの方が詳しいならリードして貰った方が有り難いし」
「じゃあなんで怒ってんだよ」
「別に怒っているわけでも無い。ただ」
「ただ?」
「先が長そうだなあって…」
彼の一番奥底の、大切に抱えている物を見せて貰うのは一体いつになるんだろうか?
そもそもそこまでぼくは入れて貰えるのだろうかと考えると、無性に彼を殴りたくなるのだ。
「長そうって何が? あ、もしかしておれイクの遅い?」
そんなにねちっこくやってたかなと大まじめに聞かれてぼくは思わずまた手を振り上げてしまった。
「だれがセックスの話をしている!」
「じゃあなんなんだよ!」
流石に痛かったのだろう、涙目で睨まれてぼくは言葉に詰まった。
「さあ…なんだろう?」
「わかんないのに殴るのかよ!」
「解らないけれど、解るって言うか…」
様々な感情と思考が体の中を巡り、そして一つの言葉だけが残った。
「まあ、キミを好きなんだから仕方無いなって」
今度は進藤が黙る。
「おまえ、おれのことが好きなんだ」
「嫌いな人間にこんなことをさせるほど人間愛に満ちてはいないけど?」
「や、だっておまえ今初めて言ったじゃん。おれは散々言って来たけどさ」
「何を?」
「おれのこと好きって…」
みるみる進藤の目が潤み、なんだか面倒なことを言われそうな気がしたのでその前に叩いた。
「痛っ、だからおまえ、そのいきなり殴るのやめろよな」
「いいじゃないか。これがぼくの愛情表現だ」
「ええっ?」
そして今度はそっとその頭を撫でてやる。
「色々思う所もあるかもしれないけれど我慢しろ、それでもきっとぼくの方が堪えることが多いんだから」
「そっか…やっぱ下って負担デカいんだなあ」
しみじみとまた下ネタに持って行かれて再々再度叩こうかと思ったが、これではこの先きりがないと気がついてぼくは苦笑しつつ進藤の頭を抱きしめた。
「そう思うなら精進しろ、努力しないヤツにいつまでも許すほどぼくは甘く無いから」
「――うん」
ありがとうと、今度はふざけた返しは欠片も無く、進藤は真摯にそう言った。
「努力するよ、色々全部」
「そうしてくれ」
いつか。
いつか最後の扉を開けた時、キミが本当の自分を見せてくれたなら幸いだとそう思う。
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死ぬ程書いている「お初」ネタです。ごめんなさい、でも好きなので。
ヒカルの奥底って言うのは佐為ちゃんのことだけでは無く、本質的にヒカルは人懐こいくせに自分の中には人を入れない気がするんですよね。
本当の部分を見せないって言うか、だからそこに入って行くのは並大抵じゃないんじゃないかなと。
それでもヒカルが入れてもいいと思うのはたぶんアキラだけだし、アキラには頑張って貰いたいと思います。
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