| 2017年02月05日(日) |
(SS)恵方巻きについて考える |
あまりに毎年鬱陶しいので、今年は先手を打って恵方巻き禁止令を出した。
「現物の購入は禁止、今日一日言葉に出すのも禁止だ」
時間を与えると対抗策を考えそうだったので2月3日の朝に突きつける。
「いいか、もし破ったらぼくはキミと別れる。本気だからね」
進藤は涙目で何か非道く訴えたそうだったけれど、睨み付けたら黙って頷いた。
おかげで1日中平和だったのだけれど、何故か夜になっても進藤が帰って来ない。
(拗ねて家出でもしたかな)
本当に面倒臭いなと思っていると実家から電話がかかって来た。
『アキラさん? 進藤さんがいらしたので、お夕飯食べて頂いたから』
先月の終わりに帰国した両親は、来月の頭まで日本に居る。
そのことはもちろん進藤も知っていて、だからぼくの非道を訴えに行ったのだと思った。
「あの、お母さん…」
『あなた今年は食べないって言ったんですって? 確かに作るのは面倒臭いけれど、年に一度のことなんだから作って差し上げなさいよ』
「いや、だから…」
『進藤さん、我が家の恵方巻きの味が大好きなんですって、食べながら涙ぐんでいたわよ』
ころころと笑われてぼくはしばし絶句した。
確かにぼくは毎年恵方巻きを自作していた。
何故ならば店で買うとバカ高く、業者に踊らされているようなのが気に入らなかったからだ。
でもそれを進藤が好きで楽しみにしていたとは知らなかった。
(だって、キミ…)
恵方巻きと言えばくだらない下ネタやセクハラ紛いのことしか言わないので頭にはそれしか無いのだと思い込んでいたのだ。
「…わかりました、来年は用意するようにします」
食べられないのが悲しくて、ぼくの実家に行ってしまうくらい好きならば仕方が無い。
『そうなさいよ。きっと進藤さん喜ぶわよ。そうそう、進藤さんがいらしていること本当は内緒なの。だからあなたも知らないふりをしてあげて』
出来れば叱らないで差し上げてねと言われて苦笑してしまった。
「そんなことしませんよ」
そこまでいじらしいことをされて怒る程ぼくも冷酷では無い。
精々知らないふりをして、でも来年からは欠かさず恵方巻きを作ってやろう。
(でも)
やはり鬱陶しいのは嫌なので、食べる時はしっかり切って出そうと思ったのだった。
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切ったら恵方巻きじゃ無いだろうという意見は受け付けません。byアキラ
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