SS‐DIARY

2016年12月18日(日) (SS)キミの結婚式にぼくは出ない


「キミの結婚式には出たく無いな」


唐突なアキラの言葉にヒカルは目を丸くした。


「は? 何それ」

「何って言葉通りだよ。キミの結婚式にはぼくは絶対出たく無い」


今度は『絶対』まで付け加えられ、ヒカルは明らかにムッとした顔になった。


「おまえ…もしかしなくても喧嘩売ってんの?」

「何をどう聞いたらそうなる。ぼくはただキミの」


結婚式や披露宴に出席したく無いだけだと、話しながら二人が歩いているのは繁華街で、双方とも手に大きな荷物を提げている。

今時珍しいそれは風呂敷で包まれた引き出物で、ヒカルとアキラは共通の棋士の結婚披露宴に出席した帰りだった。

とは言うものの、道々話していたのは結婚には全く無関係な碁のことで、なのにいきなりそんなことを言われたのだからヒカルで無くても仰天する。


「で……じゃあ、まあ聞いてやるよ。なんでおれの結婚式には出たくねーわけ?」

「だってキミは感情がモロに顔に出るじゃないか。結婚なんてことになったらそれは幸せそうな顔をすると思うし、それを同じ空間で見ていたくないなって」

「いや、だって結婚式だろ? 幸せそうでなんぼじゃねーの?」

「そんな脂下がった顔を見せられるくらいなら、不幸せそうな顔の方が100倍マシだ」


さらりとアキラは非道いことを言う。


「だから本当に申し訳無いけど、ぼくはキミの結婚式には出ないから」


そんな話が出るどころか、そもそもヒカルには付き合っている相手がいない。

なのにどうしてそこまで頑固に言い張るのかと言えば、単純にアキラがヒカルのことを好きだったからだ。

いつからと解らないくらい前から好きで、でもそれを胸の奥に隠して来た。

このままずっと誰にも話さず終わるものと覚悟していたけれど、今日披露宴で幸せそうな新郎新婦にヒカルを重ね合わせて見てしまい、すっかり憂鬱になってしまったのだ。


「別にぼくが出席しなくてもキミは友達が沢山いるから構わないだろう」

「いやいやいやいや、出て貰うよ。お前が出無いとおれ困るし」

「何故だ? スピーチなら和谷くんでも伊角さんでも、呼べば社も喜んで来てやってくれると思うよ。ぼくが出席する必要は無いじゃないか」

「あるよ、大あり! だっておれだけ出ても、花嫁がいないんじゃさあ」

「花嫁?」


不審そうにアキラの眉が寄る。


「え? あれ? もしかしておれが花嫁の方? だったらそれでも構わないけど、とにかくケッコンって一人じゃ出来ないじゃん。碁と同じで二人揃って初めて出来るものだから」

「キミ……なんの話をしているんだ?」


ゆっくりと歩みを止めてアキラがヒカルに尋ねる。


「何ってそりゃあ、ケッコンの話だよ。おれとおまえの」


きっぱりと当たり前のように言われてアキラは頭の中が真っ白になってしまった。


「は?……え?」

「おれ、ケッコンはおまえとしかする気ねーもん。だからおまえが出てくんないと、ものすごく寂しい事になると思うぜ?」


棒立ちになったまま、アキラの頭の中はもの凄い勢いで物を考えていた。
しかし考えても処理が追いつかない。


「いつ、キミとぼくは結婚することになったんだ?」

「え? おまえ嫌?」


非道くびっくりしたような顔で聞き返されて反射的に答えた。


「嫌じゃ無いけど」

「だったら、問題はおまえが出無いって言ってることだけなんだって。おれ、アレやりたいんだよ。ほら天井からゴンドラで降りて来るヤツ」


あれは絶対に外せないよなと、そして更にはキャンドルサービスから引き出物の話までし始めたので、アキラは必死で平静を装いながら、混乱した頭で、とにかくゴンドラだけは止めさせなければと思ったのだった。


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『なんだか色々考えていたことがみんな馬鹿らしくなった』塔矢アキラ談


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