SS‐DIARY

2016年10月03日(月) (SS)おまえは今まで食ったパンの枚数をおぼえているのか?


先に出掛けるアキラを抱き留めて、ヒカルが行ってらっしゃいのキスをしていると、後ろからわざとらしい咳が聞こえた。


「なんだよ、和谷、妬くなよ〜」

ヒカルが振り返った先には、ごろりと床に横になった和谷が、眉を8の字に寄せて二人を見つめている。

昨夜飲み会からヒカルの部屋に傾れ込んだのだが、そこには当然のようにアキラが居て、目覚めた途端ラブシーンを見せつけられるはめになってしまった。


「妬いてねえよ! ちょっとは人目を憚れって言ってんだよ」

「人って別におまえしかいねーし」


なあと促されたアキラも、特に恥ずかしがる風でも無く深く頷く。


「心配してくれなくても大丈夫だ。他の人の前では絶対にこんなことはしないから」

「って、そういう話じゃ無いっての。少しはおれに気を遣えってことだよ。ずっと隠してたくせに、バレた途端臆面もなくちゅーちゅーしやがって!」

「だってバレちゃったんなら仕方無いし。和谷、別に平気っぽいし」

「そうだね。こんなに平常心でいられるなんて思っていなかったから見直したよ」


ヒカルにはけろりと、アキラにはしみじみと言われて和谷はぶつりと頭の筋が数本切れそうになってしまった。


「平気なんかじゃねーよ! でもだからっていきなり態度も変えられないし、おまえら元から変だったし!」


随分だなと言いながら、それでもヒカルもアキラも気を悪くした気配は無い。

実際それまで二人は自分達の関係を周囲にひた隠しに隠していた。

同性同士のカップルの存在が多少は認知されて来たとは言え、まだまだ世間はマイノリティに厳しい。だからこそ気づかれないようにと神経をすり減らして来たのだが、それは相当なストレスでもあったのだ。

それが偶然とは言え和谷に知れて、思いがけず拒絶も拒否もされなかったので、以来すっかり味を占め、和谷の前では遠慮無くいちゃいちゃするようになった。



「まあいいじゃん。いつかおれらもみんなに公表するつもりはあるんだからさ」

「そうそう、それまでぼく達の良い息抜きの場になってくれれば」

「それを見せつけられるおれのメンタルは? それにいつかっていつだよ」


噛みついてくる和谷に、ヒカルとアキラは顔を見合わせる。


「……そうだなあ。取りあえずタイトル後三つか四つ獲って囲碁界を牛耳れるようになったら?」

「うるさ方の先生達がいなくなったら好き勝手やれるしね」

「ってそんなのまだ何十年も先じゃん!」

「大丈夫、おまえそんなにやわな神経してないから」

「してるよ、ガラス細工より繊細だよ! とにかくおれが憩いの場だって言うならもうちょっとでいいから配慮しろ! 暇さえあればちゅーちゅーちゅーちゅー! どんだけすれば気が済むんだよ!」

怒鳴られたヒカルは目をぱちくりとさせると、おもむろに両手を使ってひいふうみと指を折り始めた。


「やめろ! 数えんな!」



アキラもアキラで顎に手を当てて考え込んでしまう。


「いいって言ってんだろ、塔矢もなに真に受けてんだよ」


お願いだから止めて下さいと終いには半泣きになって和谷が頼み込むと、二人はぱっと顔を上げた。

やめてくれたかと思いきや、声を揃えて同時に言う。


「わからねえ!」

「わからないな」


そして再び声を揃えてこう続けた。


「そもそも何回しても満足なんかしないし」

「息をするのと同じことだから、回数なんか数えていられないし」


キミだって1日の呼吸の回数を数えていたりはしないだろうとアキラに言われて、和谷は絶望的な顔になった。


「ま、とにかく何回してもし足りないってことで」

「でも息をするのと同じでしなければ生きていられないからね」


そこで途中だったことを思い出したらしい。

改めてじっくりと行ってらっしゃいのキスと行って来ますのキスをヒカルとアキラが目の前で濃厚に繰り広げ始めたので、和谷はもう二度と絶対にこの二人のすることに突っ込みは入れまいと心の底から誓ったのだった。



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バカっぷるです。

でも、ふざけているようですが和谷くんの存在が本当に救いになっています。

タイトルは「ジョジョの奇妙な冒険」のディオ様のセリフです。


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