SS‐DIARY

2016年08月21日(日) (SS)DEAD OR ALIVE


えげつない話だけど、正直二週間もSEXしていないとヤリたくてたまらない。

本当は一週間だってキツいし、3日だってもぞもぞするけれど、出来ない時は仕方が無いので一人で抜いて我慢する。

でもここの所は矢鱈目ったら忙しく、毎日疲れ果てていたので抜く気力も無く爆睡していた。

それでも溜まるモノは着実に溜まって行くわけで、その日は爆発寸前という感じだった。


「あーっ、くっそ!」


ヤリてぇとは、さすがに口に出しては言えないけれど、心の中では優に百回以上繰り返していた。

なのに肝心の恋人はと言えば、遠く離れた人混みの中でお上品に笑っていてこちらを振り向きもしない。



そもそもは二週間前喧嘩したのが始まりだった。

久しぶりの逢瀬だったのにも関わらず、検討からマジな喧嘩にもつれ込み、そのまま怒り心頭で女王様はおれのマンションから帰って行ってしまったのだ。

喧嘩はいつものことだし、喧嘩したら平気で二週間から一ヶ月会わないことも普通だ。

でもその間、自己処理すらしなかったというのは初めてで、おれは体がキツくてたまらなかった。


(でも、だからってゴメンナサイっておれの方から謝るのは癪だし)


ヤリたいので許して下さいでは塔矢の怒りも解けないだろう。

そんなこんなでもやもやの真っ最中だというのに、今日は棋戦のスポンサー主催のパーティーなんかに駆り出されているわけで、ああもう早く帰って寝たいもとい抜きたいという気分で一杯で、仕事だというのに愛想を振りまく気にもなれないでいた。

すると、そこにふいに声をかけられたのだ。


「こんにちは。進藤さん……ですよね」


振り向いた先に居たのはおれでも知っている人気女優で、カクテルグラスを持ちながらにっこりとおれに笑いかけた。


「こんばんは、じゃないんですか?」


芸能界ではどうか知らないけれど、今は夜で昼じゃ無い。


「あら、ごめんなさい。習慣になってしまっているものだから。ちょっと今、連れが仕事の電話で会場を抜けていて暇しているのよ。お話ししても構わないかしら」

「どうぞ別に。でもおれ、ウィットに富んだ会話ってヤツとか出来ねーですよ」

「そんなの。私だってしたこと無いわ」


テレビや映画でよく見かけるその顔は、間近で見てもかなりな美人で、喋ってみると意外にも気さくで感じが良かった。




「へえ、女優さんでもユニクロ着るんだ。おれはてっきり海外ブランドしか着ないんだと思ってた」

「失礼ね。そりゃ、今日みたいなパーティーには気張った物を着るけれど、普段家に居る時にグッチやシャネルなんて着ているわけ無いでしょう」

「ふうん、じゃあもしかして百均なんかも行ったりする?」

「行きます。まったく人をなんだと思っているの? セリアで雑貨を良く買うし、食器は大体ニトリで買ってるわよ」

「いや、ニトリは百均じゃ無いし」


他愛も無いと言えば他愛も無い会話を続けながら、おれは気がついたら彼女の上から下から舐め回すように眺めてしまっていた。


(結構着やせするタイプ? でも腰はマジですげえ細い)
(足首細いし、こういうタイプってあそこの締まりもイイんだよなあ)


もし心の中を覗かれたら手に持っているクラッチバッグでぶん殴られそうだったけれど、結構あけすけなことを考えていた。

この女と寝たらスッキリ出来るんだけどなあと。もちろん冗談半分だが。

と、唐突に彼女がおれの耳元に顔を寄せ、内緒話のように囁いた。


「ね、もしこの後暇なら上に行かない?」

「上?」

「そう。実は昨日からこのホテルに泊まっていて、今夜も一泊する予定なのよ」


吹きかけられる息は甘く湿っている。

ついさっきまではごく普通に喋っていたのに、今はがらりと雰囲気が変わり、目つきが濡れたようになっている。

女優ってすげえなあと素直に思った。


「……連れのヒトがいるんじゃ無かったんデスか?」


ごくりと唾を飲み込みながら、それでも辛うじて問い返す。


「そんなの、嘘に決まってるじゃない。あなたと話すきっかけが欲しかったのよ」


しなだれかかられ、日干し状態だったおれの全身に震えが走る。


「パーティーの最初から、いいなあと思っていたのよ。あなた、すごくセクシーだもの」


ああ、マズイ、絶対マズイ。

断れと全力で理性が言うけれど、本能が抗いがたく彼女を受け入れようとしている。

相手は女優だし、おれを誘っているのはその場限りの相手が欲しいからなんだろう。

恋愛の噂の絶えないヒトだし、たぶん後腐れは絶対に無い。

そう値踏みして、頷きかけたその時に、いきなり横から伸びて来た手がおれのネクタイをぎゅっと握り、そのまま引き絞るようにして後ろに持ち上げた。


「っ」


ぐえっと絞め殺された蛙のような声を上げるおれに、氷のように冷たい言葉が突き刺さる。


「キミ、相手を間違えているぞ」


振り返るまでも無い、塔矢だ。


「何? あなた」


驚く彼女を一瞥して、ネクタイを締め上げ続けながら吐き捨てる。


「この男には既に決まった相手が居るので獲物なら他で探していただけませんか?」


そして相手の返事も待たずにおれを会場から引きずり出した。


げぇっ、げほっと離された途端におれは体を二つに折って咳き込んでしまった。


「なに……しやがる。殺す気か」

「別にそうしても良かったんだけどね」


塔矢は冷ややかで、触れれば一瞬で切れそうなくらいに鋭利だった。

怒っている。

一目見て解るくらい塔矢は本気で怒っていた。


「まったく、キミはケダモノか? 据え膳どころか出来れば誰でも良いんだろうが!」

「うるせえ、おまえのせいだろうが、ずっとツンケンしやがって」

「だからって誘われれば誰とでもほいほい寝るのか、最低だな」


そして塔矢は再びおれのネクタイを握ると、今度は自分の方に寄せるようにして強く引いた。

ぐっと顔を近づけた状態で睨み付けながら冷ややかに息を吐く。


「……感謝しろ。もしさっきの女に付いて行っていたらキミとは縁を切るつもりだった」


永久に金輪際、キミという存在をぼくの中から抹消するつもりだったよと言われておれは目を見開いた。


「だったらそのまま見過ごせば良かったじゃん。こんなケダモノ野郎、居ない方がおまえは清々するんじゃないのか」


言った途端、ネクタイを引く力がぐっと強くなった。


「まったくだ。そう出来ない自分が不甲斐ないよ」


そうしてから目を眇めて言う。


「ぼくも上に部屋を取って来た。だからさっさと付いて来い」

「え?」


相変わらずの絞め殺される一歩手前状態で、おれは顔を歪めながら塔矢に聞いた。


「意味、わかんねーん…、だけど」

「わかるようにしてやろうか?」


ぎゅうっと喉にネクタイが食い込んで、おれは息が出来なくなった。


「抱かれてやるって言っているんだ。グダグダ言わずに言うとおりにしろ」


締められる、その力の強さはそのまま塔矢のおれへの怒りでおれへの愛だ。

おれを見るその目は、軽蔑と冷淡が入り交じった暗い炎のようだったけれど、おれの下半身には間違いなく効いた。


「行、く」


よしとは言わなかったけれど、ネクタイを引き絞る力が少し緩む。


「本当に……キミは最低だな」


張り詰めたおれのズボンの前に目をやりながら、眉を顰めて唾棄するように言う。

どうしてこんなキミを愛しているのか自分で自分が解らないと。

けれどネクタイは決して離さないまま、塔矢はおれを乱暴にエレベーターホールまで引きずって行ったのだった。


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『どんなに怒っていても、ヒカルが他の誰かと寝るのは絶対許せないアキラ』が今回の話のハイライトです。


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