喧嘩した時を除いて、大抵ベッドに入っても二人ともすぐに眠らない。
「それでさー、最近本田さんがすげえコアなオカルトものにはまっててさ」
「映像? それとも小説?」
「小説…になるのかな。ネットで連載してるらしいんだけど、結構えぐい描写が多くて。ちょっと見せてもらったけど、おれはああいうの苦手」
「ふうん」
その日あったことや、見たこと、聞いたこと。
もちろん寝る前にも話は沢山しているけれど、ベッドの中では少しとろりとして気怠い雰囲気でぽつぽつと話す。
「そういえば小説で思い出したけど、この前緒方さんの部屋に行ったら見慣れない装丁の文庫本があって、なんだろうと思ったらラノベだったんだ」
「え? マジで? 嘘!」
「聞いたら間違って買ったんだって言ってたけど、何をどう間違えたらあんな派手な装丁の本を買うんだか。緒方さんこの前恋人と別れたばかりだから、暇を持て余してるんだなあって可哀想になったよ」
「もしおれと別れたら、お前もラノベ読んじゃったりするの?」
「唐突だなあ」
ヒカルの問いにアキラは苦笑したように笑い、それからいきなり手を伸ばすと、ヒカルの腹を掌で強く叩いた。
「わっ、痛っ」
「ラノベを読むかどうかは解らないけれどね、怠惰に生活してこの腹が掴めるようになったら、キミとの仲を考えるかもしれないね」
だから精々油断するなよと更にもう一度叩いてアキラが言う。
「痛っ、痛いって! くそ、やったな」
がばっと起き上がり、ヒカルがアキラに馬乗りになる。
「おまえの弱点なんて嫌って程知ってるんだからな」
「へえ?」
「脇腹とか」
言いながらすっと指で肌を撫でる。途端にびくっとアキラが震えた。
「足の付け根の所とか」
「ちょっ…止めろ」
「それからうなじも結構弱いよなあ」
顔を伏せ、うなじには細かく舌を這わせる。
耐えるようなアキラの声に満足そうにヒカルが笑いをこぼした。
いつもなら、このまま行為に移ることも多い。けれどこの日はヒカルはそうはせずに、舐めるのを止めると体を離した。
「……しないのか?」
アキラが問うように言う。
「おまえがしたいなら、おれはいつでもしたい」
「ケダモノめ」
「でも今日はおまえ疲れてんだろ。だからいいよ、見逃してやる」
ちゅっとついばむように唇にキスをして、それからアキラの体から降りるとまた大人しく隣に横たわった。
「明日な。明日させて」
「キミの方が疲れていなければね。キミ、明日は埼玉のイベントに行くんだろう」
「北海道でも博多でも疲れねーよ、その後にご褒美が待ってるなら」
「バカ」
小さく笑い合い、それからどちらからともなく探って手を握った。
「おやすみ」
「ん、おやすみ」
「好きだよ」
「おれも、愛してる」
そして程無く手を繋いだまま、二人とも安らかな息をし始めた。
世界中の誰も知らない。
虎と龍がこうして毎晩、じゃれ合い、睦み合っていることを。
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仲良し一番!
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