死んだように丸一日眠って、目を覚ましたら隣に進藤が居た。
部屋は自分の部屋で、でも寝る前に彼は部屋に居なくて、どうしてだろうと思う前に、掛け布団を持ち上げて自分が何か身につけているか否か確かめてしまったのが我ながら恥ずかしい。
(何を考えているんだ、ぼくは)
真っ先に貞操の危機を考えたのは、たぶんぼくが進藤をそう言う意味で意識しているからで、そう思うと余計に居たたまれない気分になった。
(別に進藤と会う約束はしていなかった)
一昨日ぼくは地方の仕事から帰って来て、シャワーだけ浴びると倒れるように眠ってしまった。
翌日を休日として空けておいたので何の心配も無く心置きなく眠ったのだが、まさかその更に翌日の朝まで眠ってしまうとは思わなかった。
(まあ、それくらい疲れていたってことだけど)
日を跨いでの対局は疲れる。
体力も精神力も削ぎ落として限界近くまで出し切ってやるのでその後はよれよれになってしまうのだ。
それでも普通に帰って来て、着替えてシャワーを浴びた自分は偉いと思うのだが、それからの時間のどこに進藤が挟まって来たのか解らない。
(取りあえず起こすか)
ゆさゆさと体を揺すると、進藤はうめき声のような声をあげて僅かばかり目を開いた。
「んー……何、目ぇ覚めたん?」
「ああ。それでいきなりで悪いんだけど、どうしてキミがここに居るんだ」
そしてぼくの隣で寝ているのだという問いだけは辛うじて飲み込んだ。
「んなの、おまえが呼んだから来たんだろう」
まだほぼ眠った状態の進藤は、五月蠅そうに言うとくるりとぼくに背中を向けてしまった。
「会いたいからって、おまえがおれを呼びつけたんじゃんか」
そして再び寝入ってしまった。
「ちょっ…待て、そんな覚えは無いぞ。それにぼくはずっと寝ていたのにどうしてそんな」
「……起きてたよ。半分寝ぼけてるみたいな感じだったけど、フツーにおれに電話して来て、ちゃんと鍵も開けてくれて」
まあ、その後は正体不明で寝ていたけれどと、そしてもうこれでいいだろうと不機嫌そうに言って掛け布団を頭から被ってしまった。
「そうか……ごめん」
たぶんきっとぼくは対局の興奮が冷めやらず、少しでも早く彼と検討したくて電話してしまったのだろう。
ネットの中継でずっと経緯を見ていただろう進藤の意見を聞きたかったのは本当なのだ。
(でも、だからって意識も無いのに呼び出すなんて)
自分がそんなことをしたというのが信じられなかった。
「……勝ってそんなに嬉しかったのか」
序盤から激しくぶつかり合って、終盤は半目を争うような展開だった。だからこそ勝てた時にはほっとしたし、心から嬉しいとも思ったのだ。
でも、出来るならこういう戦いは進藤としたかったとも思ったのだが。
「腹減ってるなら食うもん冷蔵庫に入ってっから」
「あ……うん、ありがとう」
体を半身起こしたまま、いつまでも横にならないぼくに、進藤がくぐもった声で言う。
「それと、返事はちゃんと目ぇ覚めてから言うから」
「は?」
「返事。おまえが聞かせろって言ったんじゃん」
だからおまえが眠っている間、じっくり考えて答えを出したからと、そして今度こそは本当に眠ってしまったようだった。
すうすうと聞こえてくる寝息にぼくはしばらく呆然として、それから我に返って進藤を揺さぶる。
「おっ、起きろ! それはどういうことだ! ぼくはキミに何を言ったんだ」
けれど進藤は起きない。
どんなに揺さぶっても布団を剥いでも目を開かないので、ぼくは仕方無く進藤をそのまま寝かせるしか無かった。
「一体ぼくは……」
彼に何を話したのだろう?
そしてどんな返事を強要したのだろうか。
碁のことだと思いたい。寝ぼけながらも呼びつける程興奮した対局についての意見だと思いたかった。
けれど、頭のどこかでちりちりと警戒音が鳴っている。
もっと悪いこと。
一生言うつもりの無かったことをもしかして言ってしまったのでは無いだろうかと思ったらもう居ても立っても居られず、けれど進藤を無理矢理起こして聞くことも怖くて、ぼくは彼の寝息を聞きながら、一人悶えることになったのだった。
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寝ぼけアキラネタです。
普段理性でガッチガチに押さえつけている分、酔ったり寝ぼけたりした時の解放具合が半端無いのではないかと思います。
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