進藤が待っているのは五月五日なのに、何故かいつも『それ』は七月七日の七夕に来る。
夜中過ぎ、明け方近く、時間はまちまちだったけれど、同じなのは進藤が深く眠っている時ということ。
今年、それが来たのは深夜、12時を少し過ぎた辺りだった。
普段なら夜更かしすることも多いのだが、この日は夕食後すぐに睦み合い、結果いつもより早い時間に眠ってしまったのだった。
目を覚ましたのは微かな衣擦れの音がしたからで、同時にああまたと反射的に思った。
見えないけれど、寝室の入り口辺りからゆっくりと人が歩いて来る気配がする。
それはベッド脇の進藤のすぐ傍らで止まり、しばらく見つめているかのようにたゆたっていた。
と、息を殺すぼくの目の前でふいに進藤が「ん」と小さく声を上げる。
前髪が微かに揺れて、その揺れ方がまるで誰かに撫でられているようだと思った。
やがて気配がベッドから遠ざかり始める。
いつだってそうだ。それは決して進藤を起こさない。
ぼくは思わず半身を起こして気配に向かって言ってしまった。
「どうして起こさないんですか」
ぴたりと衣擦れが止まる。
「進藤はずっとあなたを待っているのに」
それなのにやって来ても決して会わない。会わないのに必ず毎年来る。
「あなたにはあなたの事情があるのかもしれない。でも、ぼくは―」
ぼくは辛い。
恋では無いと彼は言う。
そういうのとは違うんだよと、まだ真実を晒してすらいないのに、ぼくの心を抉るように時折ぽろりと小出しにするのだ。
「こんな風に求め合われたら、ぼくはあなたに嫉妬してしまう」
あなたを憎みそうになる自分が嫌いでたまらないのだと、言葉の最後は泣き声に近くなっていたかもしれない。
両手で顔を覆い俯せるぼくの側に、衣擦れの音が近づいて来た。
叩かれるだろうかと思った時にふわりと頭に何かが触れた。
温かく優しいそれは、親が子を撫でる掌のようだった。
「――っ」
耐えきれず涙をこぼすぼくをじっと見守るように留まると、少ししてそれはゆっくりと離れて行った。
そして来た時と同じように部屋の入り口に向かい、そこで消える。
後にはしんとした夜の空気と、穏やかな彼の寝息だけが残った。
それなりにぼくは動いたし、物音もしたはずなのに、こんな時進藤は決して目を覚まさない。
(まるでぼく一人の妄想みたいだ)
それでもそれは毎年来る。
ぼくの心を掻き乱し、白い布に落ちた墨のように黒い染みをぼくに刻んで。
「どうして」
どうして会って行かないんだと、せめてそうしてくれたならここまで苦しくは無かっただろうに。
進藤が否定して、彼の人が否定したとしても、その繋がりにぼくは永久に焼け付くような気持ちになってしまうのだろうなと。
ぼくは顔を覆ったまま、声の一つも漏らさぬように歯を食いしばって泣いたのだった。
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ヒカルはなんだかんだ結局言わないような気もするんですよね。
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