初めて進藤と結ばれて、裂かれるような痛みの末に果てた彼の頭を腹の上に受け止めたぼくは、気がつけば静かに泣いていた。
それは好きな相手と結ばれた喜びでも無く、やっと深い所まで相手を知ることが出来た嬉しさでも無かった。
ぼくの胸の中にあったのはただ一つ、『やっと』という言葉のみ。
やっと、何なのかは自分でも解らない。ただこの言葉だけが膨れあがり溢れ出して、ぼくは涙をこぼしていたのだった。
「塔矢」
気がつけば進藤もぼくを見て泣いていて、でも彼がどうして泣いているのかは聞かなかった。いや、聞けなかった。
もし彼が純粋にぼくと結ばれたことに感動して泣いていたのだとしたら、あまりにもぼくが薄情な人間に思えたからだ。
「……進藤」
「塔矢、おれ――」
おれの後に続く言葉は一体なんだったのだろう。
後悔していたわけでは無い。嬉しく無かったわけでも無い。
心から望んでしたことだったのに、どうして涙がこぼれたのか今でもぼくには解らなかった。
「あん時? あー……あれな?」
随分経った後、ふとした時にぼくはその時のことを進藤に聞いてみた。
「あれ、うーん……そりゃ、もちろん覚えてるけど」
ぼくが尋ねたのは、もし彼に聞き返されて正直にぼくのその時の感情を伝えても、それで関係が壊れることは無いと確信出来ていたからだったが、逆を言えば、聞けるようになるまではぼくでもこれだけの時間を必要としたのだ。
「もし言いたく無いなら言わなくてもいいけど」
「いや、言いたく無くはねーよ。あれな、たぶん……」
更にしばらく間を置いてから進藤は息を吐き出すように言った。
「たぶん、気が抜けたんじゃないかな」
「気が抜けた?」
「うん。それまでおれ、絶対おまえを振り向かせてやる、おれしか見えないようにさせてやるんだって追いかけてて、それですげえ必死だったから、叶ってほっとして気が抜けたんだと思う」
嬉しかったし、感動したし、おまえのこと好きで、その好きって気持ちがあふれ出してどうしようも無かったけど、あの瞬間は確かに気が緩んでそれで涙が出たのだと思うと、進藤の言葉は淡々としていて、でも正直な心の内を語っているのだというのが痛い程伝わった。
「おまえは?」
「え?」
「おまえもあん時泣いてただろう」
なんであの時泣いてたんだと真正面から尋ねられ、ぼくは覚悟していたくせに予想外に動揺した。
それはやはり彼に比べて自分の心持ちが愛情に欠けているように思えてしまったからだった。
そしてそんなぼくを彼がどう思うかというのが付き合ってもう何年も経つというのに未だに自分は怖いのだということがこの時になって初めて解った。
「キミは怒るかもしれないけど」
息を吸い込み恐る恐る口を開く。
大丈夫。
ぼく達の関係はこんな他愛のないことでは絶対に壊れたりはしないのだから。
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ということで置き土産SSです。行ってきまーす。
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