外出から戻り、温かい家の中でゆっくりと左手から手袋を外す。
進藤のその仕草を見るのがぼくはとても好きだった。
ぴったりとした黒い皮の手袋は彼の指の長さをとても際立たせたし、しなやかでありながら男臭い彼の手の大きさをより魅惑的にぼくの目に映したからだ。
「何?」
1、2秒物も言わずにぼうっと見ているぼくを進藤は不思議そうに振り返る。
「あ? もしかしておれがここに立ってると邪魔? クローゼットのドアが開けられないか」
「いや、違うよ。なんでも無い。外がとても寒かったから、ちょっと温かさを噛みしめていただけで」
「なんだよ、まだそんな寒さが堪えるような年じゃねーだろ」
からかうように笑うと、進藤は右手の手袋もぐいと乱暴に脱ぎ捨ててぼくの方に歩み寄って来た。
皮だから皺にならないようにと丁寧に脱いでいたはずなのに、台無しだとぼくは心の中でため息をつく。
そもそもこの手袋は、彼がぼくがしているのを見て格好いいと褒めてくれたから買ってプレゼントしたものだった。
『えー? いいよ、皮なんかおれには似合わないし、手入れもなんか面倒そうだし』
『あれだけ褒めておいてそれか! キミにも似合うと思うから買ったんだ。それとも格好いいと言ったのは単なるリップサービスだったのか?』
『まさか、本当におまえがしてると格好いいから言ったんだって』
『だったらキミも嵌めてみろ、きっととても似合うはずだから』
それでもしばらくぶつくさ言っていた進藤は、ぼくと色違いのお揃いだと気がついてからはぴたりと文句を言わなくなった。
『ん。そーだよな。出来る男はそれなりのもん身につけなくちゃだよな』
『まったくだ。いつまでも学生気分で毛糸の手袋でも無いだろう』
『でもあれ、昔おまえがくれたもんだから』
結局の所進藤は皮云々では無く、手袋をするということに軽く抵抗を感じていたのだ。
何故なら毛糸越しでも何越しでも無く、素手でぼくと手を繋ぐことが大好きだったから。
ぼくが大昔に送った毛糸の手袋を愛用しているのも、脱ぎやすいということが大きかったのだ。
「年なんか関係無い。寒いものは寒いよ」
前に立ち、しげしげとぼくを見つめる進藤を軽く睨みながら言う。
「えー? でも年取ると寒がりになるって言うじゃん」
そしておもむろにぼくの頬を両手で挟む。
「マジか! すげえ冷たいな、おまえの頬」
「だから寒かったって言ったじゃないか。きっとキミの頬も同じくらい冷えていると思うよ」
ぼくもまた言いながらゆっくりと手袋を外して彼の頬を両手で挟み込んだ。
「ほら、冷たい」
氷のようだと言ったら、くすぐったそうな顔で笑った。
「もう冷たく無いよ。おまえの手で温まったから」
嬉しそうに、幸せそうに目を細める。
「ぼくだってもう温かい。キミは体温が高いんじゃないか」
「そんなことねーよ。別にフツー」
なんだったら詳しく確かめてみるか? と意味ありげに唇を薄く開くので、ぼくは引き寄せるようにして自ら彼に口づけをした。
温かい。
唇も舌も口の中も。
でも何よりも頬を挟む彼の手が温かくて幸せな気分だったので、ぼくは彼に手袋をプレゼントして本当に良かったと思ったのだった。
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ヒカルはヒカルでアキラが手袋を外す仕草がセクシーだと思っていたりしたわけです。
手袋を外すのはそれから自分に触れるためなのにでそれも嬉しいと。でもアキラはそのことを知りません。
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