喧嘩という程でも無い言い争いをしてから、ぼく達は眠る時手を繋がなくなった。
正確に言えばぼくの方から彼の方へ手を伸ばさなくなったというだけのことだけれど、いつも僅か彼の手がぼくの手を探して動くのが解る。
でもぼくからは動かない。
いつから眠る時手を繋ぐようになったのか解らないが、ぼく達は眠る時お互いに手を伸ばし合い、しばしの間手を繋ぐようになった。
そのまま眠ってしまうこともあれば少しして離すこともある。でもそれはなんとなく始まって、そのまま継続して行われていた小さな愛情の確認作業でもあった。
「おまえさあ…」
進藤は何か言いかけて何度も口を噤んでしまう。
表面的にはぼく達の諍いは終わり、ぼくも普通に接しているからだ。でも手は繋がない。
それでもしばらくは悔しさからか持久戦に持ち込んだようだったけれど、結局音を上げたのは進藤の方だった。
「悪い、悪かった。とにかくごめん、本当にごめんなさい。反省してるから許して」
そこまで謝る程の諍いでは無かったのだが、ずっとぼくの心に棘が残ったままだったのは事実だったのでため息と共に進藤に言う。
「別に怒ってなんかいないよ。だから謝る必要は無い」
「でもおまえ―」
「本当に怒ってはいないから」
疑わしそうな進藤にそれ以上は物を言わせずぼくはその件を終わりにした。
(まったく)
些細なことだから傷も小さいと思うのは間違いだ。その事を身に染みて反省しろと心の奥深くで歯ぎしりするような思いで呟く。
しょんぼりとした犬のようなキミ。
それでもとりあえずぼく達はその夜からまた元のように手を繋いで眠るようになったのだった。
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