少々潔癖症の気味のある塔矢はどんなに疲れていても、どんなに遅く帰って来ても必ず最低シャワーだけは浴びて寝る。
そしてそれが出来ない時にはおれに指一本触らせてくれない。
以前どうしても高ぶって抑えきれずに無理矢理抱いたら、その後一ヶ月程口をきいてもらえなかった。
『キミはそれでいいかもしれないけれど、踏みにじられたぼくの人としての尊厳はどうなる。いつもキミは自分は気にしないからと言うけれどキミの問題じゃない。ぼくが嫌なんだ。だから今度こんなことをしたら本気でぼくはキミと別れるからね』
にこりともせず突きつけるように言われてさすがにおれも反省して、以後無理強いすることは一度も無かった。
けれどその日、泥のように疲れて帰ったおれに珍しく塔矢の方から触れて来た。
さわさわと腰回りを撫でるようにする触り方は紛れも無くそういう意味で、 でもおれは本音を言えば疲れていたのでもうそのまま眠りたかった。
「ごめ…おれ、今日は」
うとうとしながら言っても全く塔矢の指は止まらない。
「わかった、わかったよ。でもシャワー浴びて来るからちょっとだけ待って」
移動に次ぐ移動、そしてその日は蒸し暑かったのでどろどろに汗をかいていたからだ。
「いいよ別に。このままでいい」
塔矢はおれの意識がクリアになったのを確認して、そのままぐいと肌着の中に手を差し込んで来た。
「や、だからちょっと待てって、おれ今すごく汗臭いし、するなら綺麗にしてからしたいし!」
「いいじゃないか、ぼくは別に気にしないよ。キミは言う程いつも汗臭かったことなんか無いし、むしろシャワーを浴びないくらいの方がキミの匂いが良く感じられてぼくは好きなんだ」
「は? や! でもおれがヤだっての!」
塔矢の言っていることはいつもおれが塔矢に言っているのと同じことばかりで目が丸くなった。
「おまえ、そのまましようとするとすげえ怒るじゃん。おれだってそうだって言ってんの!」
「ぼくがいいと言っているんだよ」
ムッとしたように言って塔矢はおれの下着を脱がせると下腹部にそっと鼻を押し当てた。
「ほら、良い匂いじゃないか。キミの匂い…すごく好きだよ」
とても興奮すると、いやそれもいつもおれが言っていることだろうと心の中で絶叫しながら、でも塔矢の迫力に押されて反論することは出来なかった。
(じゃあ、おれの人としての尊厳はどうなるんだよ)
そんなもん、もしかして最初から無かったのかもしれないなと思いながら、おれは満足した猫のようにおれの体に乗りかかり、誘うように腰を動かす塔矢の体を諦めてしっかりと両手で支えてやったのだった。
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