「勝負をしないか?」
珍しくアキラの方から言われてヒカルは喜色満面飛びついた。
「いいぜ! 早碁? 一色碁? それとも目隠し碁? ペナルティはどうする?」
「残念だけど碁じゃない。そしてペナルティは…そうだね、負けた方が相手の言うことをなんでもきくって言うのはどうだろう」
「上等、で、結局何やんの?」
「今日一日、ぼくが何を言ってもキミはぼくに『愛してる』って言わないこと。もし出来たらキミの勝ちだよ」
「なんだ、そんなことか」
「そうだね、少し簡単過ぎたかな」
楽勝、楽勝とヒカルは舐めきった顔で早くも皮算用を始めている。そんなヒカルにアキラが言った。
「キミのことが好きだよ、愛してる」
にっこりと花のように微笑まれてヒカルは瞬時に真っ赤になった。
「キミはぼくのことが好き? 愛してくれているかな?」
「そんなのもちろん大好きだよ。あい―――」
途中まで言ってヒカルは言葉を切った。
「きったねえぇぇぇぇぇぇぇぇぇ」
「何が?」
苦悶するヒカルの前でアキラはただひたすらに、にこにこと微笑んでいる。
「ぼくはただ自分の気持ちをキミに伝えただけだよ。キミ、普段からあまり言わないってぼくに不満があるみたいだから、たまには素直になってみようかなって」
「違うだろ! それ絶対嘘だろ! おまえの方から勝負持ちかけて来たから怪しいと思えば」
「非道い言いがかりだな。単純に恋人としてキミに気持ちを伝えているだけなんだけれど」
やっぱりキミはぼくのことなんか好きじゃないんだ。もう愛してくれてはいないんだと心持ちしょんぼりした様子で言われてヒカルは慌てた。
「そんなことねーよ! 好きだって言ったじゃん。おまえのこと滅茶滅茶あい―」
くぅぅぅぅぅぅぅと、ヒカルは呻きながらその場にしゃがみ込んだ。
「…おまえがこんな陰険なヤツだったなんて」
「なんのことを言われているのか解らないけれど、愛情の確認って大切なことじゃないか? 言葉にしないと伝わらないこともあるしね。愛してるよ、進藤。キミは?」
「あー…いー…」
しくしくとヒカルは顔を覆って泣き出してしまった。
「なんで泣くんだ」
「おめえがあんまり非道いからだよ!」
「ぼくが? どうして?」
屈託のない笑顔で問い返されてヒカルは更に恨めしそうな顔になった。
「だーかーらー」
言いかけたヒカルの言葉をアキラの言葉が遮った。
「そうそう、キミずっとぼくと結婚したいって言っていたよね」
「ああ…うん」
「いいよ」
あっさりと言われた言葉にヒカルが仰天する。
「え、マジ?」
「うん。今のままだと何かあった時側に居ることが出来ないし、キミの最期を看取るのはぼくだって思っているから、だから養子縁組しても別に構わない」
にっこりと今までで最高の笑顔を浮かべてアキラは言った。
「愛してるよ。キミだけを心の底から愛している。キミは?」
ヒカルはたっぷりと1分ほど悶え苦しんだ後にアキラの前に両手をつくとぺたりと頭を下げた。
「ごめんなさい、許して下さい。おれが悪かったデス。頼むから負けさせて下さい」
「ん?」
「愛してるよ。心の底から愛しちゃってるよ、ちくしょう〜〜〜」
うれし涙と悔し涙の入り交じった涙をこぼしながら、愛してるを繰り返すヒカルをアキラは愛情の籠もった瞳で見つめた。
「はい、よくできました」
それじゃペナルティとしてキミはこれからもぼくを一生愛すること、そしてぼくが打ちたい時は気が済むまで相手をすることと囁いて、そっとヒカルを抱きしめると額にキスしてやったのだった。
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ヒカルをいじめるためなら養子縁組もいとわない男、塔矢アキラです。
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