SS‐DIARY

2014年10月19日(日) (SS)何だこのクソ可愛い生き物は!


塔矢がえっちをさせてくれない。

最初は気のせいかと思ったけれど、何だかんだと理由をつけられ気がついたら二週間以上が過ぎていた。


『ごめん明日早いから』

『今日はちょっと体調が悪いんだ』

『疲れ過ぎていて…ごめん』


それ以外は普通で、もちろんそれだけのために付き合っているわけでは無いから良いと言えば良いのだけれど、あまりにも避けられ続けるとどうしてだろうかと不安になる。

今更だけれどこういう関係を解消したいのではないかとか、他に好きなヤツが出来たのではないかとか、最悪おれのテクに問題があって、だから嫌がっているのではないかなどと下世話な方向にまで想像が行ってしまうのだ。


『塔矢、今日―』

『ごめん、芦原さんと約束があるから』


とうとう匂わせもしないうちから断られるに至って堪忍袋の緒が切れた。


手合いが終わった後の塔矢を一階で待ち伏せて捕まえる。


「進藤? キミ、今日は手合いは無いんじゃ」

「無いけどおまえがあるの知ってたから来たんだよ」


むっとしたおれの顔に雲行きが怪しいのを感じてか早々に塔矢は逃げ腰になった。


「何か用でも? 悪いけどぼくは今日は―」

「この後予定は何にも無いよな。事務方に聞いて仕事のスケジュール聞いてあるから」


おれが言うと塔矢は狼狽えたような顔になった。


「仕事…は無いけれど芦原さんと」

「芦原さんとも緒方センセーとも約束は無いよな。もう連絡して確かめた」

「実はお父―」

「塔矢先生にも聞いたって。ついでに言うと市河さんにも北島さんにも広瀬さんにも聞いてあるから言い訳しても無駄だぜ」

「日本棋院長野支部の本橋さんと会う約束が―」

「おまえ、おれのことバカにしてんのか!」


思わず怒鳴りつけたら塔矢は気まずそうに黙り込んだ。


「何の予定も用事も無いならこれからおれんち行こうぜ? ここんとこ全然ゆっくり会えて無いし、これ逃したらまたお互い忙しくなるし」


暗にというより半ばはっきり「やろうぜ」と促す。


「でも今日は…」

「別に体調悪く無いだろ。こうして触ってても熱なんか無いし、今日一日元気そうだったって篠田先生にも聞いたし」

「それでも…」

「おまえ何なんだよ! そんなにおれとするのが嫌かよ。おれにもう飽きたのか?」

「そんなこと、無い」


びっくりしたように言われたので内心おれはほっとした。


「じゃあ、なんでだよ。なんでここんとこずっとおれとスルの嫌がってんの」

「それは…だって…」


いつもきっぱり、はっきりの塔矢がらしくなくもじもじと言い淀んでいる。


「もしかして下なのが嫌だとか?」

「そういうことじゃ…無い」

「じゃあなんでだよ!」

「キミに……………から」

「は?」

「キミに嫌われてしまいそうだから」


予想外の言葉におれは思わず絶句してしまった。


「なんで? おれがおまえのこと嫌うわけ無いじゃん」

「でも…………………」

「聞こえねえ!」


びしりと言うと恨めしそうな顔で見られた。


「おれバカなんだからはっきり言って貰わないと解らないって。一体なんでおれがおまえのこと嫌うんだよ」

「ぼくが、あんまり…………………淫乱だから」


言葉の後半はほとんど聞こえないくらい小さかった。


「は? え?」

「最初の頃はよく解らなかったし、痛い方が大きかったからキミ任せにしていたけれど、最近は…その…気持ちがいいんだ。すごく気持ち良くてもっと色々して貰いたくて、キミにも色々してあげたくなってしまって」

「それが何か悪いん?」

「はしたないだろう。ぼくの方から誘ったり、ねだったり」

「いや、おれは嬉し―」

「縛られるのだって嫌じゃないし、道具を使われるのも感じるし、無理矢理乱暴にされるのも実は好きだし」

「おれの方は願ったり叶ったり―」

「挙げ句の果てにはキミのを飲ませて欲しいなんて頼んでしまって…自分で自分が恥ずかしい」

「えーと」

「このままだともっと恥ずかしいことを言ったりしたりしてしまいそうだったから、だから」


止めどもなく喋り続ける塔矢の前でおれはスマホを取り出して検索を始めた。


「キミに嫌われる前に少しでも自分をなんとかしたかったんだ」

「解った」


キツイ調子で言ったつもりは無かったけれど、塔矢がはっと顔を上げた。


「だから…そういうわけだから」

「うん。お前が死ぬ程バカだってのがよくわかった」


どこの世界に自分の恋人がよりえっちになって嬉しく無い野郎がいるんだよ!


「調べたらこの近くにもマニアックなホテル結構あったわ。だからおれが本当に淫乱なおまえのことを嫌いかどうか確かめに行こうぜ」

「え?」

「淫乱でキレイですげー可愛いお前をおれがどう扱うか自分でちゃんと確かめろって言ってんの」


それでもまだぽかんとした顔でおれを見つめるクソ可愛い恋人をおれは思う存分滅茶滅茶にしてやるために外へと引きずって行ったのだった。

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アキラの悩みはいつもヒカルの想像の斜め上ということで。


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