「最近、若手の風紀が乱れているようだが」
集まりの途中で緒方が面子を見渡して渋い顔で言った。
「等々力とか言ったかあの小僧、具体的にどうなんだ」
視線で促されて何人かが小さく頷く。
「等々力くんはとにかく遅刻が多いですね。今の所手合い開始後十分間の内に来ているのでギリギリセーフということにしていますがあまり続くようなら不戦敗扱いも考え無ければなりません」
答えたのは篠田師範で更に事務の者も言う。
「等々力くんは少々口のきき方というか言葉が乱暴ですね。服装も派手で棋士としての自覚が欠けるというか…」
「そんなことよりあの子はちょっと見境がなさ過ぎです。セクハラ紛いのことを言ったりしたり、女流からも随分苦情が出ています」
わざわざ挙手して言ったのは桜野で、等々力に対する不満がかなり大きいらしい。
とにかく出た意見を総合すると、昨年プロ試験に合格して上がって来た等々力という若手が服装もまずければ言葉使いや礼儀作法もなっておらず、一番困るのは同僚だという自覚も持たず女性と関係を持ちたがるということだった。
「進藤にも随分手こずらされたが…でもあいつは女には手を出さなかったからな」
苦い口調で緒方が言葉と共に煙草の煙を吐き出した。
「何度か呼び出して指導しているんですが一向に正される気配が無いですねえ」
篠田師範が大きく深いため息をついた。
学校や企業の中に係や委員会があるように、日本棋院内にも運営をスムーズにするための様々な委員会組織が存在し、今日集まって話し合っているのは、若手の指導をメインとした風紀委員会だった。
委員長は緒方で、それに院生を束ねる篠田師範などが面子として加わっている。
「もっと何か大きなペナルティを科した方がいいのか…ふむ」
緒方が考え込んだ時だった、すぐ隣で黙って話を聞いていたアキラがぽつりと言った。
「軽くシメればいいんじゃないですか」
アキラも風紀委員の一人だったのである。
居並ぶ面々は一斉にぎょっとしたような顔になってアキラを見つめた。
「あ、もちろん暴力的な意味では無く囲碁的な意味です」
視線に気がついて穏やかに訂正したけれど凍り付いたような場の雰囲気は変わらない。
「…おまえ」
少しして緒方が困惑したような顔で言った。
「最近、進藤に似て来たな」
「失敬な、似てなんかいませんよ」
アキラは憮然とした顔で返したが、居合わせた面々は皆一斉にその通りだと頷いたのだった。
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昔、棋院の組織図だったかなんだったか見ていたら委員会というものが存在していて(風紀はありませんでした)面白いなあと思ったのですが、今回これを書くに当たって確認しに行ってみたらどこにもそれが見当たりませんでした。えー???幻だった? でも確かに見た覚えがあるんですよう。
とりあえずアキラバージョン。ヒカルバージョンも書けたらいいな。
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