| 2014年05月24日(土) |
(SS)メロンパン進化形 |
塔矢のたっかいスーツのポケットから丸めたハンカチのような物が出て来た。
指導碁から帰って来て、汗をかいたからとシャワーを浴びに行った塔矢のスーツをおれは気を利かせてハンガーにかけてやっていて、その時にふとポケットの厚みに気がついたのだった。
(なんだこれ)
塔矢はおれと違って使ったハンカチを汚く丸めるようなことはしない。不思議に思って見てみると何かを包んでいるようなのだった。
「ああ、それキミにおみやげだよ」
シャワーを浴び終わって頭からタオルを被った塔矢がおれを見て笑いながら言う。
「みやげ? おれに?」
視線に促されるように開いてみると中には人形焼きが二つ入っていた。
「キミ、甘い物が好きだろう」
「…………うん」
確かに和洋問わず甘い物は好きだけれど、特別に人形焼きが大好きというわけではない。
「これ、もしかしなくても出先で出されたお茶菓子か何か?」
「そうだよ。実はそれと一緒に大福も出てね、本当はそっちも持って帰って来たかったんだけど、さすがにスーツが粉だらけになってしまいそうだったから」
人形焼きだけでごめんと、でもそれだけでもポケットの中には菓子クズがこぼれたんじゃなかろうか。
「お客サンに変な顔されなかった?」
天下の塔矢アキラ様がいそいそとハンカチで茶菓子をお持ち帰りする様はどんな風に目に映ったのだろうかと少しばかり心配になって尋ねる。
「別に? ただ、気を遣われてしまって別にお包みしましょうかって言われてしまってね」
さすがにそれは断ったのだと塔矢は言った。
(そりゃあな、倉田さんじゃあるまいし、そんな図々しいことはさすがに―)
「だってそれじゃキミを甘やかし過ぎるものね」
「は? なんで?」
思いもしないことを言われてびっくりした。
「なんでそれでおれを甘やかすになるんだよ」
「だっていくら下さると言われても、そんなにたくさん甘い物を食べたら歯にも体にも良くないじゃないか」
好きな物だからって無制限にあげるわけにはいかない。キミがどんなに不満でも、キミのためにならないと思ったら厳しくすることに決めているんだときっぱり言われて絶句した。
(こんなんで厳しくしてるつもりだなんて)
おまえはおれに甘過ぎだと心の中で苦笑しながら、おれは手の上の人形焼きに目を落とし、甘やかされる幸せをしみじみ噛みしめたのだった。
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似たような話を前にも書いているかもしれませんが。
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