| 2014年05月21日(水) |
(SS)それってちょっとすごくないか? |
おれが塔矢を呼んだ時、塔矢は一度も「ちょっと待って」と言ったことが無い。
返事はいつも「何?」か、「わかった今行く」。
その時にどこに居ても、その時に何かしていても塔矢は躊躇無くそれを放っておれの所にやって来るのだ。
いつだったかキッチンで排水溝ネットの替えが見つからなくてつい呼んでしまったら塔矢はすぐにやって来ておれに在処を教えてくれたけど、後になってその時緒方センセーと電話中だったことを知った。
『どうしておれがおまえごときの用に待たされなきゃならん』
緒方センセーはクサっていたが、おれの用事が排水溝ネットだったと知ったら更にムッとした顔になった。
『アキラはおまえを甘やかし過ぎだ。そんなもの見つからなくても死ぬわけではなかろうに』
まったくもってご尤もだとおれも思う。
でも、なんだ、その、ちょっとそれってすごく無いか?
だれだって、どんなヤツだって反射的に「待って」と言ってしまいそうなものなのに。
「え? ぼくが? そうだったっけ?」
塔矢に言ってみたが驚くことに無自覚だった。
「ふうん。気がつかなかったけれど、でも、そうだね、気がついていたとしても呼ばれたらすぐに行くけれどね」
「なんで? 何かしててすぐに動けないことだって幾らでもあるだろ」
面倒な書類や頼まれた原稿を書いてしまわなければならない時は一々つまらないことで邪魔しないで欲しいと思うことだってあるだろうと、そう尋ねたら塔矢は即座に「ないよ」と言った。
「何が? 邪魔しないで欲しいって思うこと?」
「いや、つまらないことなんて無いって言った」
キミがぼくを呼ぶ用事につまらないことなんて一切無いねとあまりにもきっぱりと言い切られておれは思わず茶化すのも忘れ、陸に揚げられた金魚のように口をぱくぱくさせたのだった。
※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※
これ、既に何かに載せてましたでしょうか? そんなに前に書いた物では無くて、でも載せなかったかなあ?とそこら変の記憶が曖昧で(^^; 載せた物には日付と何に載せたのか記録しているのですがたまに漏れることもあるので。
もしこの話、既に何かに載せていたものでしたら教えてやってください。
|