SS‐DIARY

2014年05月17日(土) (SS)起きて半畳、寝て一畳

もともとヒカルは住む所にあまり拘りがあるタイプでは無かった。

それなりの広さでそれなりの収納があればそれで良く、インテリアにも特に拘りは無かった。

スタイリッシュな生活という物にも興味は無かったし、カーテンやらカーペットやらを選ぶのに時間をかけるくらいならその分他のことに費やした方がずっとマシだと思っていた。

それが住み続けていた賃貸マンションを購入しないかと家主に持ちかけられて、ガラリと考えが変わってしまった。

アキラと共に死ぬまでそこで暮らすのなら、少しでも住みよい場所にしたいと思うようになったのだ。



「キミは本当に極端だよね」

インテリア雑誌に埋もれるようにして熱心にページをめくるヒカルを見つめながらアキラは大きくため息をついた。

「なんだよぅ、いいじゃんか、今まで何にもして来なかったんだから」

咎められてヒカルが拗ねたように口を尖らせる。

「折角買うことになったんだし、どうせなら色々手を入れたいじゃん」

忙しいこともあり、今まで内装関係でしたことと言えば精々が全体的な色を揃えるくらいで、それもお互いの好きな色の中間を取ったような感じだった。

「それはぼくも解らないでは無いけれど」

アキラは以前のヒカルにも増して部屋に拘りという物が無かった。

多少不便でも住めば都だし、極端なことを言えば雨風をしのげて眠ることが出来ればそれで良いという認識だった。

ヒカルと共に住むようになり、二人で色々と物を揃えてそういうことを楽しいと感じるようにはなったものの、インテリア雑誌を買って来てまで家の中に手を入れたいとは思わなかった。

「カーテンだってさ、今はフツーのカーテンレールにカーテンだけど、ロールブラインドにしたっていいわけじゃん?」

カーペットだってこんなホームセンターで適当に買って来たようなヤツじゃなくて北欧物のちょっと小じゃれた絨毯にしたって良かったしと雑誌を指さし言われても今ひとつアキラにはピンと来ない。

そうでなくてもここの所ヒカルは休日にIK○Aだ、ニ○リだ大塚○具だとアキラを引っ張り回している。

それも楽しく無いわけでは無いのだが、折角二人で過ごせる時間をそういうことで潰されるのは正直アキラは不満だった。

「なあ、いっそ設計士頼んでリフォームでも…」

くるりとヒカルが振り返り、嬉々として言った時にとうとうアキラの堪忍袋の緒が切れた。

「進藤」

ずいと迫ってヒカルに言う。

「キミはぼくとこの部屋とどちらが大切なんだ」

「へ?」

思い切り不穏な物言いにヒカルはその目を丸くした。

「そんなの、おまえに決まってんじゃん」

「だったらもうそのインテリア雑誌は全部捨てろ、そしてもちろんリフォームもしない」

「えー?」

なんでだよ、おれらの終の棲家だぞとヒカルに言い返されて、アキラはじろりとヒカルを睨み付けた。

「キミが楽しそうだからずっと黙っていたけれどね、ここではっきりさせないとマンションを買う前に別れ話になりそうだから言っておくよ」

きょとんとするヒカルに突きつけるようにアキラは言った。

「ぼくはキミと居られればそれだけでいい! インテリアなんか正直どうでもいいし間取りにも何の不満も無い。一つだけ不満があるとすればキミがそんなことにかかりきりでぼくをちっとも見ないことだ」

そんな暇があるなら一秒でも多くぼくを見ろ、ぼくと話せ、ぼくに触れていろ、そしてぼくと打てと、最後の一つだけはいかにもアキラらしいものだったけれど、ヒカルは呆気に取られたような顔からゆっくりと、しかしはっきり真っ赤に顔を染めた。

「あー…えーと、その、ごめん」

睨み付けるアキラにヒカルがしどろもどろ言う。

「そんなにおれ、おまえのこと放りっぱなしにしてた?」

「していなかったらこんなこと言わない」

ここまで言われてもまだインテリアがどうとか、リフォームをしたいとか言うのかと畳みかけるように言われてヒカルは慌てて雑誌を閉じた。

「しない。しないって! おまえとの家だから凝ろうと思ったのに、おまえ怒らせたら意味なんか無いじゃん」

もう二度と放りっぱになんかしないから許してと、ヒカルが土下座のように頭を下げるに至って、ようやくアキラも表情を緩めた。

「…まあ、ぼくだって鬼じゃないし、キミがちゃんとぼくの相手もしてくれるなら、多少部屋に手を入れようとしたって文句を言ったりはしないんだよ」

「ホント?」

「うん。そんなにしたいならリフォームでも何でもすればいい。キミもぼくも引退して嫌になるほど暇が出来たらね」

にっこりと言われてヒカルは絶句した。

「…それっていつ?」

「桑原先生くらいになったらかな」

「何十年後の話だよ!」

「別に構わないじゃないか」

だってぼくはここにキミと死ぬまで住むんだからと微笑んだままそう言われ、ヒカルはこれはもう無理だと僅か残っていたインテリアへの拘りをきっぱりさっぱり捨てたのだった。


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でもなんだかんだ言ってアキラはヒカルに甘いので部屋の模様替えくらいは許しちゃうんですよ。ソファやベッドの買い換えくらいは許しちゃうんですよ。


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