SS‐DIARY

2014年05月14日(水) (SS)ある意味母の日SSその2

いつものことではあるのだが、スーパーに買い物に行ったら進藤が目的の物とは関係無い物をぽいぽいとカゴの中に放り込んで来るので閉口した。

「チョコなんて買わないよ。あった場所に戻して来い」

最初に入れられたのはテレビでCMをよく見る新製品のチョコレート。

「えー、いいじゃん。おれこれ食べたいんだよ」

「そんなこと言って買ったまま食べていないチョコレートがまだ二つ家にあるだろう」

新し物好きで欲しがるくせに買うと満足してしまうタイプの進藤に甘い顔をしているとキリがない。

「ちぇーっ、チケ」

渋々と戻しに行ったけれどすぐに今度は別の菓子が入れられる。

「戻して来い」

「へーい」

進藤はたぶん半分遊んでいるのだと思う。

ぼくに気づかれずにカゴに菓子を入れてまんまと買わせることが出来るか否か、そんな子供みたいな所が彼にはあるから。

「進藤、湯豆腐にハムはいらない」

「進藤、冷凍のピザなんか今日は食べないから」

そのうちエスカレートしてきて菓子じゃない物まで彼はカゴに入れるようになって来た。

「いくら暑くてもスイカなんか早いよ」

「まんぼうの切り身なんかぼくは料理出来ないから」

「ナムルなんか簡単に作れるんだから総菜なんか持って来るな」

その都度戻しに行かせるのだけれどそれがあまりに頻繁なのでちっとも落ち着いて買い物が出来ない。

いい加減疲れて来た所にホームサイズのアイスクリームが入れられた。

「進藤っ! 戻して来い!」

反射的にビシッと叱ったら彼特有のへらりとした返しが無くてはっとした。

「あ…………ごめんなさい。湯豆腐の後に皆で食べたら美味しいかしらって」

振り返ると文字通り叱られた子供のような顔をした彼のお母さんが立っていた。

「そうよね、熱い物を食べて冷たい物を食べてなんてしていたらお腹を壊してしまうわよね」

恥ずかしそうにそそくさとアイスをカゴから引き上げる様に全身の血が一気に引いた。

「すっ、すみません――――そんなつもりじゃ」

今日は進藤の実家に遊びに来ていて皆で夕食の買い出しに来ていたということをぼくはゆっくりと思い出していた。

「待って! いいんです。買いましょうアイス!」

すぐ側では進藤が可笑しそうに笑っている。

「いいのよ、いいの。ごめんなさいね本当に」

「違うんです、お義母さん。ぼくはただ進藤と勘違いしてしまって」

言いながら、ああこの人も進藤じゃないかとそのややっこしさに泣きたくなった。

「ぼくも食べたいです。アイス。温かい物の後には冷たいデザートが美味しいですから」

「でも―」

肝心のアイスが溶けるのではないかと思われるくらい、ぼくとお義母さんの押し問答は続き、ようやく彼が助け船を出してくれてなんとかその場は収まった。

「いいじゃん母さん、塔矢も食べたいって言ってんだし。父さんも好きだろ、そのアイス」

そして再び買い物は続行されたのだけれど、アイスを戻しついでに進藤はドヤ顔で菓子パンを三つもカゴに放り込んだので、ぼくは家に帰ったらキツく彼に灸を据えなければと心の中で誓ったのだった。


※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※※

昨日の母の日SS? の続きです。アキラと美津子バージョン。リクエストくださったAさんいかがでしたかー?


 < 過去  INDEX  未来 >


しょうこ [HOMEPAGE]