| 2013年07月23日(火) |
(SS)彼はぼくが大好きです |
興味というよりは確認のつもりで、そういう嗜好の男性向けの雑誌を買ってみた。
自分はゲイでは無いと思っているけれど、進藤以外の同性の裸を見ても感じるものがあるのかどうか確かめてみたかったからだ。
ファッション誌のようなものからかなり際どいものまで通販で何冊か買って見てみたけれど、これと言って特に感ずるものは無かった。
鍛えているなとか、綺麗な体つきをしているなとかぐらいで特に情欲をそそられることも無く、それではやはりぼくは進藤が進藤だから好きなのだと再確認するに至った。
進藤にしか感じることが出来ない自分に今更ながら絶望し、けれど同時に非道くほっとして、ぼくはお役ご免となったその雑誌を後で捨てるつもりで本棚の奥に片付けた。
後でと思ったのは物が物であるだけに気軽に廃品回収などには出せなかったからだ。
少しずつ燃えるゴミと一緒に出してしまおうとそう思っていたのに、ある日遊びに来た進藤にそれらは見つかってしまったのだった。
「塔矢、何これ」
先に部屋で寛いでいて貰い、茶を入れてもどって来たら、進藤は床に広げた雑誌を食い入るように見詰めていた。
あの隠していた雑誌だということは見てすぐわかり、顔から音をたてて血の気が引いた。
「それは…あの…」
自分が真性のゲイなのかどうか確かめたくて買ってみたとは何とも言いにくく言い淀んでいるうちに進藤がぽつりとこぼした。
「おれ、おまえはノーマルなんだと思ってた」
でも違うんだなと、あまりにショックを受けた様子の彼にぼくの方がショックを受けた。
「違う、進藤、それはぼくが―」
「おれとするようになって目覚めちゃった? それとも元からそうだったん?」
おまえは本当はこういうマッチョなタイプが好みだったんだなと、貧弱な体でごめんと言われて一度引いた血が今度は一気に頭に上った。
「おれ…がんばるけど、ここまでムキムキにはなれないかも」
「あ、いや…ちょっと待て」
「それと胸毛。体はどうにかなるけど胸毛は頑張っても今更生やすことは出来ないと思う」
それでも頼むから浮気だけはしないでくれ、おれのことを捨てないでくれと涙ながらに懇願されて、とうとうぼくはキレてしまった。
「違う! 違う、違う、違ーーーーーーーうっ!」
何をどうしてそういう考えに至ったのか。
嫌われたり引かれたりしなくて良かったと胸の内では思いつつ、ぼくは彼に自分が胸毛もマッチョも好きでは無いことと、そもそもが明後日な誤解であることを大声で怒鳴るようにして説明したのだった。
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