SS‐DIARY

2013年07月07日(日) (SS)人の恋路を邪魔するヤツは


茹だるような暑さだった。

一日の半分以上は冷房の効いた室内に居たとは言え、それでも行き帰りや帰って来てドアを開けた瞬間の、むっとした熱い空気には思わず愚痴のように言葉がこぼれた。

「暑いなあ、梅雨が明けたからっていきなりこんなに暑くならなくてもいいじゃんか」

余程であればつけるものの、部屋の冷房はアキラが嫌いなので滅多にはつけない。

ヒカルは下着姿でソファに転がると、先日薬局で貰った団扇を取り上げて、だらしなく顔を扇ぎ始めた。

「本当にキミは暑がりだね」

一緒に帰って来たアキラは、ヒカルが果てている間に自分はさっさとシャワーを浴びてこざっぱりと着替えている。

「夏が好きなくせに暑いのは苦手だなんてどういう我が儘だ」

苦笑しつつ目の前のガラステーブルにアイスコーヒーを置いてやると、ガバッと起き上がりつつも「ビールの方が良かった」とヒカルは文句をたれた。

「ビールもあるよ。でもどうせ飲むなら夕食の後でのんびり飲んだ方が美味しいだろう」

だからぐずらないで大人しくそれを飲めと言われて、ヒカルは飲みつつもまだ文句を言っている。

「おまえはいいよなあ、そんなに汗もかかないし、もともとそんな暑がりでもないし」

「そんなことは無い。ぼくだって暑いのはちゃんと暑く感じているよ」

ただ我慢強いだけだと言われてヒカルはむうっと口を尖らせた。

「もういっそ、土砂降りにでもなんねーかなあ」

こんないい天気じゃなくていいんだと、恨めしそうにヒカルが外に視線をやると、同じように視線を外に向けたアキラは、何故か非道くきっぱりと「いや、このまま晴れていた方がいい」と言った。

「なんでだよ、降ればちょっとは涼しくなるかもしれないじゃんか」

「そうだけど、そんなあるか無いかの心地よさのために、一年に一度の人の逢瀬を邪魔することは出来ないな」

それくらいなら暑いのを我慢する方がいいと言われてヒカルは壁にかけてあるカレンダーに目を向けた。

「七夕かぁ」

ここの所忙しかったので、今日がそうだということを失念していた。

「…じゃあしょうがないか」

ため息をついてソファに沈む。

「素直だな」

ぐったりと顔を扇いでいるヒカルにアキラがからかうように声をかける。

「七夕だろうがなんだろうが、暑いのは嫌だって言うかと思ったのに」

「仕方ねーだろ誰だって会いたいもんは会いたいし」

それにと言葉を足して言う。

「おれは一年中おまえと一緒に居られるんだもん。そんな恵まれたヤツがどうして一年に一度しか会えないヤツらの不幸を願えるんだよ」

そんなことしたら罰が当たると、そして再び顔を扇ぎ始めたのをアキラは愛しそうに微笑んで見詰めた。

「優しいな」

「おまえ程じゃないけどな」

でも、どうせならおれにももう少し優しくして欲しいなとこぼしたら、アキラは苦笑したように笑って開け放った窓を閉めると、黙って冷房を入れてやったのだった。


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冷房が嫌いなアキラですが寝る時に寝室に冷房を入れることは許しています。だって入れないと汗だくになっちゃうから。


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