棋院のスポンサーのお偉いさんに繁華街に飲みに連れて行かれ、塔矢と二人駅に戻る道々散々客引きに遭った。
「お兄さん達、三千円ぽっきりだよ、いい子が揃ってるから」
「よ、そこの男前っ! うちの店は美女揃いでハズレは無いよ」
うるさいなあと思いつつ、それでも躱して通り過ぎていたら、一軒の店の前で塔矢が腕を捕まれた。
「お兄さん時間あるんでしょ? だったら寄って行ってよ。男なら最高の女を知らなくちゃ」
「いえ、間に合っていますから」
塔矢はにっこりと笑ってあっさり腕を振り払ってしまったが、おれはどうにも気にくわない。
「なあ」
「ん?」
「さっきの間に合ってるって、要はおれでせーよく解消出来てるから必要無いってこと?」
拗ねたような口調になってしまったのは、なんとなくおざなりに扱われたようなそんな気持ちがしたからだ。
「バカだなあ」
塔矢はそんなおれの顔を見て、叱ろうかどうしようか迷っている親のような顔をした。
「最高の男が恋人なのに、どうして他が必要になる?」
「あ、えーと…はい」
ぼくはいつでもそう思っているのだから、つまらない事に引っかかって拗ねたり焼き餅を妬いたりしたら許さないよと睨まれて、おれは慌てて謝りながら、それでもどうしても顔が赤く染まるのを隠すことが出来なかった。
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