面倒くさがりの進藤は、以前は邪魔になるぎりぎりになるまで爪を切ろうとはしなかった。
それがふと気がついてみれば、ぼくにうるさく言われなくても自分から進んで切るようになっていた。
目の前で丁寧に爪にやすりを当てている進藤を眺めながら、ぼくはからかい半分聞いてみた。
「キミ、どういう心境の変化で爪を切るようになったんだ?」
進藤はちらりと目を上げて、なんでも無いことのように言った。
「だっておまえ、結構肌が弱いから」
思っていた答えと違っていたので首をひねる。
「そうだったか? そんなに弱いつもりは無かったけれど」
「いや、そうじゃなくて、前よりも、もっと深い場所に触れるようになったじゃんか」
だからおまえに傷をつけたくなくてやってるんだと言われ、しばし言うべき言葉を見失う。
恥ずかしさは一拍置いてやって来た。
「そんな…下品なことを言うなっ」
「なんでだよ」
ぼくの言葉に進藤は、手を止めて再び目を上げた。
「下品じゃなくて」
これが愛情ってヤツだろうとぬけぬけと言う彼の顔は、夜、ぼくの上に居る時とまったく同じ表情をしていたので、ぼくはもうそれ以上何も言えずに、黙って下を向いたのだった。
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