SS‐DIARY

2013年05月01日(水) (SS)トロトロよりも硬いものを


柔らかければいいってもんじゃないだろうと、頂き物のプリンを食べながら進藤が言った。

「これだってさ、最近やわらかいのとかトロトロとかそういうのばっかりだけど、おれは家で作ったみたいな、みっちり硬いヤツの方が好きなんだって」

確かに最近流行りのとろりとした食感の物はぼくもあまり好きでは無かったのでその点だけは同意しつつ言う。

「でも柔らかければ柔らかいほどいいって人だっているんだよ」

むしろそういう人の方が多いのではないか。

「より滑らかに、より口当たりが良い物の方が万人受けするからこういう商品が増えてくるんじゃないか」

頂いたプリンはスプーンで掬うと流れ落ちてしまいそうに柔らかい。

液体の一歩手前みたいな状態は不味くは無いがどうにも心許なくて、ぼくもやはり進藤のようにもっと食べ応えのある物の方が食べ物として好きだった。

「そりゃそうだろ。こういうのが好きなヤツのが多いんだろうさ。でもおれが言いたいのは、おれは柔らかく無い方が好きだってことだってば」

カランとあっという間に食べ終わり、スプーンをテーブルに投げ出した進藤はニッと笑うとぼくに向かって「来いよ」と両手を広げて言った。

「まだ食べてる」
「そんなもん残しちゃえよ」
「食べ物を粗末にするのは―」

進藤が何をしたいか解っていて、それでも行くのを渋っていたら乱暴に腕を掴まれてそのまま胸に抱き込められた。

「うん」

ぼくの体を抱きしめて、進藤は満足そうに呟いた。

「やっぱちょっと硬い方がいい」
「…ぼくはプリンか」
「は? バカじゃねーの。こんな数百円で買えるものと一緒にすんなよ」

プリンよりもっとずっと百億倍良いもの。

そう言って進藤は更にぎゅっとぼくの体を強く抱いた。

「気持ちイイ。やっぱおまえの体ってサイコー」

抱きしめても壊れなくて心地良くしなる。それがいいのだと、感触を楽しむように進藤は何度もぼくを抱く腕に力を込めた。


女性の体は細くて華奢で砂糖菓子で出来ているかのように柔らかくて甘い。

ぼくは男だから骨も太く筋肉もそれなりについていて、逆立ちをしても女性のようには絶対になれない。

それは密かにぼくの引け目になっていたのだけれど、百人が百人きっと柔らかいプリンを好む中、硬い方が好きだというバカがここにいる。


「なあ、おまえはどう思う?」

やっぱりプリンも恋人もちょっとカタイ方がイイと思わないかと進藤が耳元に優しく囁くので、ぼくもまた彼を抱き返しながら「そうだね」、「そうかもしれない」と幸福な気持ちで答えたのだった。


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